「名前ちゃん、アイス三つのせていい?」
「マナも!!」
「え、別にいいけど2人ともそんなに食べれる?」
「いやダメだって。お前らどうせ食いきれねぇくせに我儘いうなよ。腹壊すぞ。名前さん、基本的にこういうお願いは無視でいいっスから。」
「「えーーー」」
「えーじゃないの。あ、スミマセン。苺とチョコのヤツはカップでお願いしますー!」

お兄ちゃんと再会できたことでルナマナちゃんはよそ行きの顔から本来の自分に戻ったらしい。三ツ谷くんはまるで子持ちの主婦の若く暴走するちびっこをテキパキと見事に纏めあげる。
ひとまずお冷をつぎにいってくれた三ツ谷くんに暴走姉妹を任せて、私は4人分のアイスをトレイの上に持って席を確保した。

……すごすぎじゃない、三ツ谷くん。人生何周目なの??

上目遣いのおねだりにいいように翻弄されている私より三ツ谷くんの方がよっぽどしっかりしている。本当に2人とも可愛いし、お喋りもワガママも全く苦ではなかったけど、何せ子供の扱いに全く慣れてないのもあって、1人になると自然と深めのため息が漏れた。

これを365日、毎日か。私、こんなんで家庭を持てるのかな……。全く予定もないのに何故か妙にセンチメンタルになっているとまたすぐに賑やかな声が戻ってくる。

「マナ、お姉ちゃんの隣とったー!」
「じゃあルナもお姉ちゃんの隣ー!」
「ハイハイ、分かったから水こぼす前に座れよ」

両手に花。目の前にイケメン中学生。
こう並べてみると三人とも長い睫毛と垂れ目がアンニュイな雰囲気を醸し出していて、目鼻立ちも幼いながらにはっきりしている。三ツ谷家はなかなか美形の血筋だ。

今朝出かける時は書店に寄って好きな小説の新刊を手に入れることしか楽しみがなかったのに、まさかこんな愉快なことになるとはな。アイスを食べる3人を見守りながらなんだか感慨深い気持ちになった。

「何か買い物したの?」

一足先にアイスを食べ終えた三ツ谷くんは手慣れたようにそのままの流れで妹達を甲斐甲斐しく世話していたが、少しでも息抜きになればと膝の上の可愛らしいピンクの紙袋を指さす。軽く世間話でもしてみようと試みれば、三ツ谷くんより先に反応したルナちゃんがすかさず「ルナの水筒だよ!みてみて!!名前ちゃん!」と可愛らしい水筒を紙袋から引っ張り出した。こちらに向かって誇らしげに高らかとオニューの水筒を掲げたルナちゃんを見て、マナちゃんが黙ってるわけがない。

「おにーちゃん!マナのもだしてよぉ!」
「いいけど新品なんだから落とすなよ」

負けず嫌いなのかはやくはやくと駄々をこねるマナちゃんに促されるままに三ツ谷くんは二つ目の水筒をだして手渡してあげる。愛らしいドヤ顔がふたつ。どうやら姉妹お揃いで買ったらしい。よほど嬉しいのか見て見てと自慢する2人の足が机の下でばたばたと揺れるのが、正直水筒より可愛くて微笑ましかった。

「ルナちゃんが水色で、マナちゃんピンクの色違いかー!かわいいねぇ!これは使うの楽しみだね。」
「はは、今まではペットボトルに麦茶持たせてたからな。」
「「めちゃくちゃヤだったー!!」」

唇を尖らせて不満顔になる2人を見て吹き出す。そりゃあ大抵のお友達が水筒を持ってくる中でペットボトルを出すのは相当嫌だろう。三ツ谷くんもやれやれとため息をつきながら、

「んな我儘いってもしゃーねぇだろ。……まあ分からなくもねェけど。」

実際俺もそうだったし。

姉妹より少し年の離れた三ツ谷くんが懐かしむようにぼそりと呟く。

それを聞いて、嗚呼、と妙に腑に落ちてしまった。子ども3人でショッピングモールに水筒を買いに来た三ツ谷三兄妹。遊びたい盛りの男の子が、今一番手がかかるであろう年頃の妹達の面倒を見ること。泣かない2人の強さのわけ。今よりもっと幼い三ツ谷くんのペットボトルの水筒。

もやもやというか、若干感じていた違和感の点と点が繋がった気がした。

何をもって恵まれてると思うかは人それぞれなのに、勝手に人の苦労を想像して、他人がその人を不幸に仕上げてしまうのはナンセンス。思ってはいたのに、今私は「(子どもなのに可哀想に)」と三ツ谷くん達に同情してしまった。

「三ツ谷くんは?何か買ってないの?」

生まれて二十数年経っても人間として至らない自分が情けなくなって、しれっと話題を変えて仕切り直す。

「今日はコイツらの付き添いなんで俺のはねぇっスね。自分の買い物なら1人ん時にしたほうが楽だし。」

しかし墓穴を踏んだ。

確かに今までのやりとりを見ていると妹といてなかなか自分を優先にはしづらいはずだ。アイスを選ぶ時にアイスの種類をなかなか決められないマナちゃんに代わって店員さんに謝っていた。アイスを食べてる時も三ツ谷くんだけは速攻で食べ終わって妹達が服や床にアイスを溢さないように相当気を配っていたし、挙げ句の果てには空の紙コップを見て「名前さん、水、ついできましょうか?」って私にまで気を遣ってくれた。

結局一人で背負い込みすぎなんだよなこの男の子は。

もう一人兄弟がいればまた違うのでは?とそこまで思ってひらめく。いつもは無理でも今はいるじゃん、三ツ谷くんが頼れる大人!

「あ、じゃあさ!私、マナちゃん、ルナちゃんと玩具コーナーにいるから、三ツ谷くん、買いたいものあったら買ってきなよ。みたいものが全くないわけではないんでしょ?」

名案じゃない!?と手を合わせれば、やけに乗り気な私に対して「ふはっ!名前さん、そんなに暇してるんスか?大人ってもっと忙しいもんでしょ」と三ツ谷くんは吹き出して笑う。若干棘のある言い方だったけどまあまあ事実なので気にしない。

「そーそー。私はヒマな大人なので。2人とも、お兄ちゃんの買い物終わるまで私と遊んでくれる?」
「いいよ!ルナ、名前ちゃんとあそんであげるー!お兄ちゃん、ゆっくりでいいからね」
「マナもー!ゆっくりしてきて!」

結局うだうだ考えている私の自己満足でしかないんだけど、一応母性ある女として生まれた以上、甘え下手そうなこのしっかりものの美人の中学生をベタベタに甘やかしたいじゃん?
やっぱりアイスの時と同様、少し悩む素振りを見せた三ツ谷くんだったが、強引な私に負けて「アー……、じゃあやっぱり見たいものあるんでちょっと寄ってきてもいいっスか?すぐ戻ってくるんで」と控えめにお願いされる。

「勿論だよ。ごゆっくりー。」

緊急時に備えて三ツ谷くんと連絡先だけ交換して、玩具コーナーから三人で彼を送り出した。癖になってるのか三ツ谷くんは私達に向かって「ゼッテー迷子になんなよ!」と手をあげる。マナちゃん、ルナちゃんに言っていることはちゃんと分かっているけど、その距離からだとまるで成人済みの私まで子供扱いされている気分だ。

「お兄ちゃん、迎えにきてねー!」

完全に悪ノリモードの私が少し大きな声で愛らしい妹達に後ろ髪引かれる様子の三ツ谷くんに呼び掛ければ、三ツ谷くんはぎょっとした表情をうかべた後、苦笑いして「ヨロシクお願いしますー」とペコリと会釈した。………寂しい。
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