タカシお兄ちゃんを探すべく、1、2階のフロアをルナちゃん達を連れて歩き回った。

「おにーちゃぁあん!!」
「どこぉー!?」

初めは元気よく大きな声でタカシくんを探していた2人だったけど、2階を探し終える頃には、歩幅が一番小さいマナちゃんの顔に徐々に疲れが見え始める。

「疲れたよね。おんぶしようか?」

嫌じゃなければと付け加えて控えめに提案すれば、どうやらそんな気遣いは無用だったみたいだ。提案した途端、マナちゃんが『待ってました!』と言わんばかりにすかさず此方に腕を伸ばしてきた。嫌がられなかったことに内心ほっと胸を撫で下ろしつつ、ぎゅっと後ろから首に腕を回してきたマナちゃんをよいしょと背中に抱える。再びタカシくんを探すべく3階を目指せば、お兄ちゃんとの再会の時は思っていたよりすぐそこに迫っていた。

「ルナッ!マナッ!」

見るからにヤンチャそうな男の子と上りと下りのエスカレーター越しにすれ違う。こちらを見てぎょっと目を見開いた男の子は慌てたように姉妹の名前を叫んだ。「「おにーちゃんッ!!」」そしてそんな彼の声にルナちゃんとマナちゃんが嬉々として振り返る。……え、あの子がタカシくん……?

「今すぐそっち行くから!上で待ってろ!!」

少年はものすごい勢いで2人にそう言い残すと猛ダッシュでエスカレーターを降っていった。ダッダッダッダッ。そして、その勢いを保ったままのぼりのエスカレーターに回り込んで全力で人をかき分けながら駆け登ってくる。

はっやい!そして思っていたよりも数倍お兄ちゃん……!!

なんだかんだ談笑しながらも、大好きなお兄ちゃんが見つからずにずっとそわそわしていた2人は、汗だくで呼吸を整える少年を前にして、ようやく全身の力を抜くことができたようだった。背中でそわそわしてるマナちゃんをその場に下ろしてあげれば、2人は一目散にお兄ちゃんの元に駆け寄っていく。

もう離さないと言わんばかりに足元にがっしりと抱きつくルナマナちゃんを引き剥がしながら、「ったく、トイレいってくる間、座ってじっとしてろっていってたろ??心配したんだぞ」と少年は厳しい口調で嗜めつつ、ゴメンナサイと素直に謝る2人をまとめてぎゅっと抱きしめる。

そんな感動の再会を前に、勝手に小学生くらいの男の子を想像していた私は呆然としてその場に立ち尽くしていた。 

恐らく中学生か高校生くらいかな?背はそれほどは高くないけど、肩幅は広く、なかなか仕上がった体格をしている。紫がかったシルバーの短髪、ピアス、剃り込み眉毛。生まれてこの方、この手のヤンチャな人種とは無縁の世界で生きてきたので、学生といえども情けないことに少しビビった。
東京の学校に校則はないの……?何の変哲もない田舎から上京してきた私にはなかなかのカルチャーショックである。もしくはジェネレーションギャップのどちらかだ。

視線が噛みあうとお兄ちゃんはペコリと私に軽く会釈をした後、ルナちゃんに小声で「どちらサマ?」と尋ねていた。

「名前ちゃんだよ。迷ってたら一緒にお兄ちゃん探してくれたの」

なぜか少し誇らしげなルナちゃんの紹介に合わせて、怪しくないよアピールで気さくな笑みを作れば、ようやく状況を把握した少年は礼儀正しく深々と頭を下げる。この歳の子がなかなかやらないだろう綺麗な角度のお辞儀に少し怯んだ。

「妹達がご迷惑おかけしてスミマセンでした。」
「え゛!?いやいや全然大したことしてないし、頭あげて!?え、えーっと……、」
「三ツ谷 隆です。……いやマジでホント助かりました。妹達、何かワガママとか言って困らせたりしませんでした?」

空調の効いた建物の中で彼は首筋に伝う汗を手の甲で拭う。きっと妹を探してこの広い施設内を隅から隅まで走り回ったのだろう。安心してピッタリと足に纏わりついたままのルナちゃんとマナちゃんを見ても、きっと彼が常日頃から2人の保護者代わりをしているんだというのは安易に想像がつく。

そんな風にしっかりした大人の対応をされてしまえば、私も大人としてちゃんと答えるしかない。

「ワガママどころか立派だったよね、二人とも。ルナちゃんもマナちゃんも全く泣かなかったんですよ。」
「え?ルナとマナが?」

本当のこというと最初は少し泣いちゃってた気がするけど、意外そうにしてるお兄ちゃんの視線を受けて、もじもじ、えへえへ、と照れた様子のルナマナちゃんの可愛さに免じて、それはやっぱりみなかったことにする。

「だけど優しくてしっかりしたお兄ちゃん見て、なんか納得しました。若いのに妹達のお手本になってえらいね、三ツ谷くん」

今までの流れでうっかりタカシくんと呼びかけたけど、これくらいの歳の男の子を下の名前で呼ぶのはあまりに馴れ馴れしい気がしてやめておいた。ベタ褒めにすると三ツ谷くんは赤くした首をかきながら、「・・・・・いや、そうでもないッスよ」と気まずそうに視線を逸らす。どうやら照れているらしい。和む。私も歳をとったのか、派手な見た目にたじろいだ事も忘れて、思わずその可愛さに目元を緩めた。

不審な意味ではなく、この可愛い三兄妹とどうにかお近づきになりたい。

「ねぇ、お腹空かない?私、奢るから、3人とも付き合ってよ。」

あんまり知らない子供を餌付けするのは良くないかもしれないけど、可愛がりたい欲に負けて、たまたま視界に入ったフードコートのサーティワンを指差す。ルナちゃんとマナちゃんは顔を見合わせて分かりやすく喜びを露わにした。

「「やったー!!!アイスー!」」
「ちょ、ェ、……助けてもらった上に俺までいいんスか?」

流石に常識なありそうな三ツ谷くんは申し訳なさを全面に醸し出していたが、この反応はあと少し押せばついてきてくれそうだなと人のいい笑顔を貼り付けながら、内心ほくそ笑む。

「ちょっとルナちゃん。マナちゃん。転ぶから走らないでー。」

何にしようかと浮かれながら、前を走っていくルナマナちゃんを呼び止めながら、もう一押しとまだ迷った様子の三ツ谷くんの背中を軽く押した。

「いいんだよ。妹達も頑張ったし、お兄ちゃんも頑張ってたじゃん。たまには美味しい思いしてもいいと思うよ」

性根はいい歳しても子供のままだし、誰かを褒められるほど出来た大人でもないんだけど、この出来た少年を見てると大人として甘やかしたくもなるわけだ。

半ば強引な私に少し驚いたようだけど、観念したのか「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰います」と三ツ谷くんは年相応の悪戯っぽい砕けた笑みを見せてくれた。
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