「実は頭に刺青入ってんだよなー、見る?」

好青年だと思っていた三ツ谷くんが暴走族に入っていることを知ってから、リミッターをはずしたかのように三ツ谷くんは洗いざらい自分を曝け出すようになった。確かに隠されたことがショックと言ったのは私だけど、見せてと言ったわけでもないのに「ほら」と髪の下に隠された刺青を見せられれば、此方の感覚が麻痺しそうになる。今まで私は三ツ谷くんのことを見た目は派手な好青年と思っていたけど、実際のところは派手な見た目に負けず劣らずのヤンチャっぷり。クラスに一人はいるヤンキーとかそんなありふれたものではない。三ツ谷くんは殴ることにも殴られることにも肝が据わったホンモノの不良だ。

「名前さん、今日の夜、ちょっと外せない用事あってさ、ワリィけどルナとマナ預かってくんね?」

急遽妹二人連れてやってきた彼はルナちゃんとマナちゃんを預かって欲しいと言う。「用事って喧嘩でしょ?」と呆れ半分突っ込めば、焦る様子もない三ツ谷くんは「バレた?」と茶目っ気たっぷりに笑って誤魔化す。・・・・・・・・・可愛い。自覚はしていたけど私は三ツ谷くんに相当弱い。

「まぁ預かるのは全然いいんだけどさ、あんま無茶しないでね??」
「分かってるって。9時までには終わらせて迎えにくるわ」

これを彼なりの甘えだと解釈している辺り、私は相当ダメな大人だ。

「ルナちゃん、いつっもお兄ちゃんあんな感じなの?喧嘩三昧?」
「そーだよ!つよいんだよー!お兄ちゃん、自分より大きい人にも勝っちゃうの!!」
「そうなの!!つよいよぉ!!」
「へえ・・・すごいのねぇ・・・」

ベランダから3人でバイクを飛ばす三ツ谷くんに手を振って送り出した後、人形遊びに興じる最中に尋ねてみるとルナちゃんとマナちゃんは誇らしげに胸を張った。
視界の片隅で家事と育児と学校と暴走族の片手間に三ツ谷くんが三日で完成させた窓辺のカーテンが風に揺れて靡いてる。そして今ルナマナちゃんが遊んでるうさちゃん人形は三ツ谷くんお手製の3代目と4代目に当たるらしい。

どう考えてもそんな優しいお兄ちゃんが、今この瞬間も暴走族の先陣切って暴れまくってるとは、私には未だに想像がつかない。

「名前ちゃん、おひるごはんはいちごのけーきですよ!ボーっとしてたらマナが食べちゃいますよ!!」

難しい顔で考え事をしていれば、突如マナちゃんが扱ううさぎさんが目の前に大きく映し出される。あまりの可愛さにデレデレと顔の筋肉が綻んだ。

「あら、うさぎさん。ご飯がケーキなんて夢のようだわ!!ちなみに今日の夜は素麺と焼きおにぎりにしよっかなって感じけどうさぎさんたちは好きかしら??」
「ルナ、おそーめん、すきだよ!!」
「マナもー!!」

ごっこ遊びに交えて今日の晩御飯について問い掛ければうさぎを机の上に放置して手を挙げる2人に笑ってしまう。可愛い。「じゃ、ちょっと2人で遊んで待っててね」よっこらせと準備にとりかかろうと立ち上がれば、背後からまたお行儀良い返事が返ってくる。

この子達、実は三ツ谷くんいない時の方が扱いやすいなと思う。やっぱよその家にきてるという意識があるからかもしれないけど、ショッピングモールの時のようなワガママいったりしないし、兄譲りの激しい取っ組み合いの喧嘩もない。多分お兄ちゃんから口を酸っぱく言い聞かせられてるのかもしれないけど、人に預けられ慣れてる感じもあった。・・・・こうなると徹底的に甘やかしたいな。素麺に、醤油でこんがり焦がした焼きおにぎりは兎ちゃんの形に、サラダの具材は何故かうちにあった新品の型を使ってハートと星に切り抜く。いつもなら晩ご飯の飲み物はお茶なんだけど、今日だけは特別にオレンジジュースだ。
テーブルに持ち運んで可愛いランチョンマットにセッティングすれば、二人はこんな歪な兎にもキャッキャとはしゃいだ。

「お兄ちゃん、してっていってもこんなのしてくれないよ!ベントーにおかずたくさんあったほうがいいだろ?っていう!!うれしい!」
「三ツ谷くんならきっとやろうと思ったら出来るんだろうけど忙しいからねー。ルナちゃんとマナちゃんがまたきたときは私がやったげるよ!練習しとくから!!」
「名前ちゃんすき!!ありがとー!!」

相当不器用だけどこの二人のためなら頑張れる。
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