「み、三ツ谷・・・くん?あれバイクの免許って中学生でとれるっけ???それってもしかして特攻服ってやつ?」

決起集会の帰り、夜も遅いしマイキー達と飯に行くことになった。割と早い時間からルナマナ達と先に晩飯は済ませてきたけど、腹減らね?と聞かれると確かに腹が空いている気もしたので二つ返事で了承する。「大通りよりこっちが絶対チケェからー」得意げにいうマイキーに先導されて、いつもは通らないような住宅街の細道で単車を転がせば、仕事帰りと思われる女が危なっかしい足取りでふらふらと目の前を歩く。そっかそっか金曜だもんなー、とか他人事ながらに微笑ましく思っていると。その人はようやくバイクのエンジン音に気づき、ぴったりと道の端によけた。あからさまにドラケンをガン見した後、すぐにすれ違いざま怖気付いて俺達から視線を晒す。

そこで俺はようやくその人が名前さんだと気づいた。

すでにミラーに映った彼女の姿は後ろに遠ざかっていたけど、自分でもビックリするくらい一瞬で記憶に留めることに成功したので思い返してはアクセルレバーを握る手に自然と握力が籠る。いつもと違う綺麗目のシャツに黒いタイトなスカート、所謂オフィスカジュアルを身に纏った彼女は、ヒールの高すぎない黒のパンプスを履いていた。髪は綺麗に巻いてあって、メイクまでは通り過ぎた一瞬だったので分かんねェけど、とりあえずピンクのグロスをつけてることだけは分かった。さっきまでは酔っ払いの仕事帰りの女の人としか思わなかったけど、名前さんだと分かるとどうしてももっぺん見たくなってウズウズと胸が騒ぐ。

この格好だと驚かせるだろうなというのも考慮しつつ、散々悩んだ後、ファミレス一歩手前のところで「ドラケン、ちょっと今日用事が出来たから帰るわ。ワリィ!マイキー達に謝っといて!!」と言い残して結局引き返すことに決めた。酔ってたのも気になるし、夜道危ねぇし、やっぱもっぺんじっくり見たい。

・・・俺はこの人を人がいいただのオネエさんとは思ってねェんだよな。知ってたけど。

冗談と本気を混ぜてからかえば、脈がなくもなさそうなあのリアクション。どうしても見たくて、意地でも振り向かせたくなる。名前さんからみりゃ俺なんか中坊のガキでしかないんだろうけど、ソレをなんて名前に当てはめて呼ぶのか分からないほど俺はもうガキじゃなかった。困らせたのは悪いと思ってるけど、許されるならもっと困らせたいとすら思う。

ちょっと望んだ反応すれば簡単に笑って許してくれそうだしな。とか思った自分はこの一ヶ月程度でなかなか彼女に絆されていた。

****

「アー、びっくりした?・・・いやゴメン。そりゃそうだよな」

固まって口をあんぐりと開けている私に謝る三ツ谷くんに何を言えばいいかわからない。動揺して黒地のつなぎに立派に刺繍された金の文字を何度も読み返す。『天上天下』『唯我独尊』『卍弍番隊隊長』。ゴリゴリの暴走族すぎる。しかも隊長とか嘘でしょ、あの好青年がほんとに???あげく三ツ谷くんの横に並んだ立派すぎる大型バイク。盗んだバイクで走り出すと言う有名なあの歌が頭をよぎる。・・・・いやね、まさかそんな。

しかしリアクションを待つ三ツ谷くんもいい加減困り果てているし、何か反応を返さなければ・・・・。何というか悩んだ末に

「!!カッコイイー!」
「・・・いや流石にそれは思ってねぇだろ。引いてんの分かってるって。」

この沈黙が苦しくなってとりあえず手始めに褒めてみれば、あまりの白々しさに盛大に顔を引き攣らせた三ツ谷くんからツッコミが入る。

正直似合ってるなとは思う。ちらりと胸元から覗くシルバーアクセが三ツ谷くんの白い肌と特攻服の黒によく映えている。中学生にいっていいものか分からないけど、いつもより大人っぽくみえてセクシーだなと思った。それに私の知ってる三ツ谷くんは考えなしに人に迷惑かけたり、感情で突っ走るタイプではない。何かきちんとした理由があってのことだと信じたい。

そう言い聞かせても尚、三ツ谷くんのいう通り確かにガッカリしたのが一番の本音だ。

「そんなに嫌だった?」
「・・・だって危ないことするんでしょ?」
「まあ・・・・たまにはな。」

誰かに怪我させることがあれば、自分が怪我することもあるんでしょ??誰かを傷つけるってことは逆恨みされることだってしょっちゅうあると思う。それに全く知らないけど、麻薬とか葉っぱとかシンナーとか変な誘いがありそうなイメージ。・・・本当に三ツ谷くん、大丈夫??

考え出すとグルグル悪い想像が堂々巡りして、必死に取り繕って張り付けていた笑顔がすっと消える。先程までほろ酔いだったのに急激に体の温度が下がっていく気がした。

「・・・そう言う顔するだろうなと思って本当は隠すつもりだったんだけどさ。実際、やっぱダメージでけぇな。」
「・・・・・え、隠してたの?」
「そりゃそうだろ。こんなこと俺が言ったらズルイかもしんねぇけど、嫌いにならないでよ」

それなのに、絶対嫌いになれないようなことをいけしゃあしゃあと言うから、この男の子は困るのだ。なかなか甘えてくれないくせに、今甘えるのは流石にずるくない??参ったようにため息をつきながら頭の後ろをかく三ツ谷くんに少したじろぐ。

だけど流石に言葉一つでこんな簡単に絆されるのも癪だし、必死に喜びを噛み殺していれば、

「とりあえずこんな奴に構われるのは嫌かもしれねぇけど、今だけは我慢して俺に送られてくんね?酔ってるんだろ??」

三ツ谷くんは私が怒っていると勘違いしているようだった。眉毛がハの字に垂れ下がって、「イイコにしてるから」といいながら控えめにお手上げのポーズ。こんな夜遅くに群れて単車を乗り回す子にしては可愛い仕草で、どんな服に身を包もうが私の知ってる"三ツ谷 隆"に変わりないことが分かって少し安心する。

気づけば項垂れた頭に手を伸ばして撫でていた。

「・・・・若いし突っ走るのもありだと思う。だけどすぐ戻ってこれるとこにはいてよ」

三ツ谷くんは唐突なセリフを口走る私に目を見開く。目があってもなかなか撫でるのをやめない私に先程までしょげた様子だった三ツ谷くんが「・・・どうしたの?名前さん、酔いすぎだって、ホント。ふっ・・・!!」と吹き出して笑った。腹をかかえてケラケラ声をあげる三ツ谷くんは私が見た中で過去一機嫌よく笑ってるかもしれない。でもこちとら酔っていようと酔ってなかろうと本気だ。

少年院とかそう言う遠い場所に行かないで欲しい。デザイナーへの憧れと妹達を大事にする三ツ谷くんであってほしい。怪我しないで。またうちに来て甘やかされて欲しい。本気で祈るように思う。

散々笑った後ですぐに真剣な私の目に気づいて「ワリィ」と笑うのをやめた三ツ谷くん。仕切り直すようにゴホンと一回咳払いをした後、真っ直ぐな視線がガッチリと此方を捉えて噛み合う。

「・・・・分かった。それはゼッテー約束するから。」
「ほんとに??口だけだったら本気で怒るよ??黙ってたのも実はショックだったんだから・・・」
「【小指に誓う】。」

先程とは違う種類の微笑みを見せた三ツ谷くんは、自分の小指にキスをする。そして小指を此方に見せつけるように立ててにっと笑った。きっと元ネタを知らなかったら物凄くキザな仕草も様になりすぎてて普通にときめいてたかもしれない。まあ知ってるから、笑うだけなんだけど、どれにしたってにやにやが止まらない。

「もしかしてそれスタンドバイミー ???」
「そ、こないだ金ローでやってたの見たからさ。・・・まあ俺がやったところであんなカッコよくはならねぇわな。」
「そうでもなかったよ。リバー・フェニクスも顔負けなくらい。」

私が顔をだらしなくして笑うと「言い過ぎだろ。調子乗るからやめて。」って釣られて肩を揺らす三ツ谷くん。先程の気まずさはもう何処にもない。

この子なら大丈夫だと思える。

まだフラつく私の足元を気にかけながら、家までバイクを押してくれる三ツ谷くんの隣を私はきっと失わない。こんな真っ直ぐな人に小指に誓われてしまえば信じるしかない。あれだけ悩んでたくせにこれが恋だと言うならそれでもいいかもしれないと思った。クミみたいにいいおねーさんにはなれないけど、結果的にそれでよかったなとすら思えてきたから、我ながらチョロいもんである。
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