「それって、その男の子、完全に名前のこと「アーーーーーーッ!!!それ以上は言わないでよ!!私はまだその子に懐かれてるだけって思ってるんだから!!!」

仕事終わり、一番仲の良い職場の同僚クミに先日のデート(仮)のことを話すと「ヤバーい!!その子めっちゃ可愛いねぇ!もういいじゃん、付き合えば???」とクミはケラケラと爆笑しながら茶化してくる。恋愛経験豊富なクミなので何らかアドバイスを期待して洗いざらい話したのだが、それをいうと「いやそんな犯罪めいた恋愛経験ねぇし、無理なんだわ。」とバッサリ一刀両断された。

・・・犯罪って。そうか、そう言われれば犯罪だな。

正直嗚呼と納得してしまったたけど、それも何となく悔しくて、睨みを効かせながらグビッ、グビッと喉を鳴らして飲みかけのビールを飲み干す。ついでに八つ当たりでクミに枝豆の殻を投げつければ、「ちょっとー名前やめなよー。その子の前では柄にもなくお姉さんやってんでしょー!」とそのゴミを拾いながらゲラゲラと笑っていた。

「そう。柄にもなくね!!」

吐き捨ててゴトンとテーブルに空のジョッキを置けば、思いの外大きな音がして自分でも驚く。

本当の私はお節介焼きなだけで、そんなに甘やかし上手な人間ではない。目の前にいる彼女こそが過去に「別にアユミちゃんを庇うわけじゃないけど、確かに名前が後輩を指導すると後輩が育たないんだよね。なんでか分かる??」と今も胸に刺さっているその一言を発した張本人である。とはいっても、別にそれは悪口でもお説教でもなく、"単なるその場凌ぎのお節介"と"最後まで責任を持って面倒をみること"を混同して勘違いしていた私にクミが教えてくれただけだ。苦笑いしながらも厳しく芯のあるその言葉を私はちゃんとアドバイスとして受け止めたし、納得もしていた・・・はずだった。

「・・・・そんなん知ってるんだよぉお!だって正直中学生の三ツ谷くんの方がよっぽどしっかりしてるんだもんっ!でも私は大人だからそれを甘やかしたくて、背伸びしてるんだもんーー!!!だって三ツ谷くんメッチャいい子でかわいいんだもんーーっっ!!!そんなのお姉さんぶるしかないじゃんっ!」
「ちょ、名前、声でかいよ!!もう酔ってんの!?!?早くない??」

特に最近出来た三ツ谷くんという特別甘やかしたい対象が出来てからは、ちゃんと自分がいいお姉さんできてるかとか、三ツ谷くんの顔色とか、逐一気になって仕方がなかった。結局私は大人ぶってその場で納得したふりをして、その癖いつまでもクミに言われた言葉をうまく処理できずに気にしてるのだ。

私がケーキ二等分を思いつくタイプと思うか??答えは"いいえ"。ルナちゃん、マナちゃんにしてみせたのは、昔、ショーケースの前で優柔不断な私を見兼ねたかつてのクミのモノマネだ。「名前、苺好きだよね」と大人っぽく微笑むクミが私のお皿に自分の苺を分けてくれたこともある。

そして結果的にクミの真似をして間違いはなかった。

『・・・・・・・名前さんがどういうつもりか知らないけど、これって世間一般ではデートだろ?カッコつけさせてよ』

三ツ谷くんからはその甲斐あって嫌われてはないはずだ。むしろ昨日のセリフからみるに恋愛かどうかは抜きにして好かれていることは確信している。だからこそ、だ。

私がクミをどんなに外側で取り繕ったところで、三ツ谷くんみたいな真の甘やかし上手はそのうち私と言う人間の底の浅さを簡単に見抜きそうで、怖かった。愛想尽かされたら単に三ツ谷くんがうちに来なくなるだけなんだろうけど、私は他人の家のカーテン作りで真剣な顔を見せてくれる三ツ谷くんを失うのがどうしても嫌だった。

「店員さぁん、生一つ追加でお願いします!!」
「・・・あ、それとごめんなさい。お冷やももらっていいですか???」

しんみりしたので1人意気揚々と注文すれば、便乗するようにクミも申し訳なさそうに追加でお冷やを頼む。いつもより早めのお冷やに瞬きを繰り返してクミをみれば、

「はい、お冷はアンタのぶんね。頼んだビールは私が責任持って頂くから。」

クミは「二つともこっちください。」と店員さんからビールとお冷やを受け取って、私にお水の入ったグラスを回した。ええええっとジョッキに腕を伸ばしてブーイングすれば、少し落ち着きな?といいながらクミが笑う。・・・そこで確かに良くない酔い方をしてるなと思った私は素直に小さく頷いた。

言ったことないけど私は今の会社に同期として入社してからずっとクミを尊敬している。

器用で、容量もよくて、美人で、そのくせチャーミング。先輩には必ず仲良さげに絡まれて、後輩には舐めることなく慕われていて、優しいも厳しいも兼ね備えたスマートなクミ。ずっとカッコいいなと思ってた。「私、正直指導してもらうのクミ先輩がいいです。苗字先輩はちょっと・・・」後輩に影で言われるような私が少し頑張ったところでそうなれるのかは分からないけど、なれるもんならなってみたい。私の理想の大人像。

最後にお互い手持ちの一杯飲みほして、飲み会は通常より早めのお開きとなった。
確かにクミの指摘の通り金曜日に賑わう夜の街を歩いてみると私はいつもより激しめに酔っていて、独特の浮遊感の中、クミに手を引かれてようやくまっすぐ歩けている状況だ。駅で電車を待ってる間、クミは困ったように笑いながら「名前って昔言ったこと今も気にしてるでしょ?ほら、アユミちゃんが名前の陰口言ってた時の話。」とズバリ私の悩みを言い当てる。

「あの時はさ。名前も傷ついてたのに更に厳しいこと言ってごめんね・・・。名前は考えすぎなくらい気にするタイプって知ってるのに。」
「え?いやいや。クミのいったことは事実だもん。むしろこんなこと友達に言わせてゴメンねって感じ」
「・・・あのね、そのミツヤくん?は、職場の後輩でもなく、名前の息子でもなく、たまたま会っただけの中学生なんだから、思う存分お得意のお節介ぶちかましていけばいいと思うんだよ。実際それに救われるとこあったから1人でも家に遊びにくるくらいには名前に懐いてるんでしょ?」

・・・今更私が言っても慰めにもならないかもだけどさ。

いつになく真剣な話の後に小さくそう付け足すクミに対して私は「そーだね。確かに気にしすぎてたかも。ありがとね。」と頷く。きっと言われた私より、言ってしまった言葉をずっと気にしているのはクミのほうなんだとその瞬間に分かったから、本当は三ツ谷くんに好かれたのは常に頭にクミを思い描いているからなんだとは流石にいえなかった。どんなに酔っ払って、凹んでいても、友達にそんなデリカシーのないことを言う女には成り下がりたくないからだ。

電車のドアが閉まるギリギリまで駅のホームから「ちゃんと一人で帰れる?やっぱ送っていい??」と心配してくるクミに「いやいや私を何歳児だと思ってんの?はよ帰りな!」と茶化しながら別れて、私は最寄り駅から自宅に向かう。まだ酔いが回ってるのか、足元は覚束ず、そこで手を引っ張ってくれる人がいなくてふっと寂しくなってきた。ふらふらと人気のない小道を歩く。欠けた月が嘲笑うみたいだなあと夜空を見上げながら歩いてたら、少しだけセンチメンタルになって涙が溢れてきそうだった。下を向いても、上を向いても出るもんは溢れて出てくる。

ブルルルルルルルルッ

後ろからけたたましい複数のバイクの音が、数台、後ろから聞こえてきたので、感傷にも浸ってるわけにもいかず、私は轢かれないように立ち止まって、壁側スレスレによける。すごいスピードで大型のバイクがそんなに広くない道路の真ん中を我が物顔で3、4台通っていった。呆けているとノーヘルで刺青頭のいかついお兄さんと思いっきり目があったので、なんとなくすぐにその集団から目を逸らす。・・・こっわ。あんまり強面だったので心臓がバクバクと激しく音を鳴らす。過ぎ去った後で、少ししてからまた歩みを再開すると先程の一台が何故かバイクを止めて此方に戻ってきた。てっきりあの強面のお兄さんが因縁をつけにきたんだと思って身構えれば、

「名前さん・・・・?ですよね???」

「三ツ谷くん・・・・・????」

ヘルメットを外しながら声をかけてきたのは、今まさに私を悩ませるその人だった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -