僕はカヲル君と出会った岸辺に来ていた。カヲル君を殺してから、もう何日も経つ。彼は自分が最後の使徒だと言っていて、その後何日も使徒の襲来がないからミサトさんやリツコさんも(信憑性には欠けるが)それを認めざるを得なかった。
アスカはもう脱け殻のようだし、綾波は別人みたいで近付き辛くて、僕はずっと独りで居た。ネルフに入る前に戻ったみたいだった。ついこの間まではとても賑やかだったから、今こんな状態になってやっと、第三新東京市が物寂しい都市だと気付いた。住民はみんな疎開して、文明だけがムダに発展していた。

「こんにちは」
「・・・どうも」
「何してるの?こんな何もないところで」
「・・・別に、何もしてないよ」
「ふうん。ねえ、隣について行ってもいい?」
「・・・いいけど」
「ありがとう」

僕より少し身長が低くてヤケに白い肌の女の子は、僕と少し距離をおいて隣に来た。

「夕日綺麗だね」
「・・・うん」
「私昨日ここに越してきたから何も分からなくて」
「・・・珍しいね。普通なら疎開するのに」
「そうだね、私、母がネルフに勤めていて、一応少し離れていた場所に父と住んでいたんだけど、」
「けど?」

少し悲しい顔をして彼女は続けた。

「私と父は避難勧告が出されたのに逃げきれなくて、敵との応戦中に、その、父が巻き込まれて」
「・・・ごめん」
「何で君が謝るの?」
「その、パイロットだから」
「ヱヴァンゲリヲンの?」
「うん・・・」

恨まれると思った。それが普通だと思う。使徒と戦っていたからとは言え、親が殺されて恨まない子は居ないと思ったから。

「すごい!」
「えっ」

予想外の答えが返ってきて、僕は思わず唖然とした。

「あの大きなロボットに乗って沢山の人を助けているんだね!」

僕は何も言えなかった。沢山の人を助けているなんて嘘だ、現に目の前の女の子の父親一人も、アスカのことも綾波のことも守れていない。返す言葉がなくて、笑うしかなかった。
それと同時に、彼女からとても励まされた気がした。大人達からの同時の励ましとは違う、アスカやカヲル君から励まされる感じに似ていた。照れ臭いけど真心の籠もったあの感じ。

「・・・僕さ」
「うん?」
「友達を殺したんだ」

彼女からの返事はない。軽蔑されたとしても、ボクは話さずには居られなかった。

「その人は渚カヲルというネルフの人間で、彼と出会ったのがこの岸辺だったんだ」
「、そうなんだ」
「元々ネルフに友達はいたけど疎遠になってて、だからカヲル君とは直ぐ仲良くなって」
「うん」
「でも、彼は使徒だったって言われて、その討伐命令が僕に出て」
「殺したんだ?」
「・・・うん」

彼女は返事の代わりに深く息を吸って吐いた。僕は話を続ける。

「それから、誰も居なくなって何もなくなった感じがして、毎日なんとなく生きてて、もう生きているのか死んでいるのかも分からない、生きる意味も分からない」

僕も彼女じっと水平線を眺めていた。長い時間が過ぎた気もするし、その感覚は実は短い間だった気もする。彼女は言った。

「生を受けた以上、人間は他を殺さなきゃ生きていけないんだ。それが敵と認識される友達であってもね。だから殺した側は、殺されたもののためにも長生きしなきゃいけないんだよ。生きる意味はまさにそれだ。」

彼女はとてもカヲル君に似た口調で話した。懐かしさで視界が歪んだ。

「だから君は生きなきゃいけない。亡くなったカヲル君のためにも」
「・・・うん、そうだね」

太陽はもうすっかり見えなくなって、星がちらほらと出始める。

「それじゃあ私、帰るね」
「うん、また」

手を振り合って互いの帰路につこうとすると彼女は何かを思い出したように僕を呼び止めた。

「君、名前は?」
「シンジ、碇シンジ」
「シンジ君、また会えるといいね」
「そうだね。君の名前は?」





マリアの吐息





「渚カヲルの妹・・・」
「っ、」
「なーんてね」
「お、驚かさないでよ」
「ごめんごめん。でも・・・」
「えっ?」
「なんでもない。またね!」

彼女は駆け足で去っていった。彼女の名前は結局聞けなかったけど、なんでもないと言った一言を僕は聞き逃さなかった。

『私はカヲル君と同じ存在かもね』








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