年明けまで後一時間。

「寒!」

年末、どこの家も家族や親戚や恋人たちと賑わって誰も外に出ようとはしない。まあ、それが普通だろうし俺のように外に出ているやつなんて頭おかしいか余程暇なやつだろう。当然、俺は後者だ。
しんしんと雪が降っていて、すぐ近くに大通りがあるはずなのに車の音が全くしなかった。雪ってすげぇ。

「あ」
「あ?」

後ろから声がしたから振り返ってみた。そこにはこれまで嫌というほど顔を見てきてこれからも嫌というほどみていくであろう名前の姿があった。年末くらいゆっくりさせてくれ。

「晋助、何してんの」
「おめェこそ」
「私は年越し蕎麦を買いにコンビニまで」

カサ、と蕎麦が入っているであろう袋を彼女は持ち上げる。見るからに赤いキツネだ。そういえば、毎年年越し蕎麦食ってねェな。

「晋助んち、今日も親いないの?」
「ああ、いつものことだ」
「そ・・・、あ!買い忘れていたものかあったー晋助くんコンビニまでイキマショウカ」
「は?」

ぐいと腕を引っ張られて雪道をずかずかと進んでいく。コンビニまではここから五分程度、しょうがない、ついて行くかと諦め半ばで彼女について行くことにした。
多分、コイツはコイツなりに俺に気を遣ったんだろう、そして俺は、多分この後コイツの家に招かれ、コイツと年を越す。毎年恒例の気遣い。

「お前、さっき蕎麦買ったろ」
「残念ね、最近は紺のキツネとやらが出ているのよ」
「マジか」
「しかもとびきり美味い」
「マジか、買いだな」

アリアーシター、とコンビニの店員に無愛想に返事をされる。寒いからと買ったおでんの容器に手を当てて暖まるのを見て微笑ましいと思った。

「おでん食って蕎麦食って・・・太るぞ」
「年末は無礼講よ、・・・意味あってる?」
「知らね」

顔が寒くて、手で暖めようと上着のポケットから出すと、顔よりも手の方が冷たくて暖める意味がなかった。しょうがないから手を引っ込めようとする。そのとき無意識に名前を見た。何か俯いてる、と思うと声が聞こえた。

「・・・ねえ」
「あ?」
「寒そうだね」
「ああ、かなり寒い」
「暖めてあげよっか」
「・・・ああ」

名前はいつの間にかおでんから手を離していた。どちらからともなく、互いに寄り添って、手を繋ぐ。

「、暖かいな」
「うん、暖めてたから」
「俺のためか?ん?」
「・・・違うもん」
「ほォ?ここに来て強がるのか」

俯いたまま顔を上げる気配がないので、試しに手を強く握ってみたら握り返してきたので俺はコイツを愛しいと感じた。冬が寒くて本当に良かったと歌う歌手はずっと前にこんな状態を体験したんだろう、今まさにその気分だ。

「高杉ってさ、いじわるだって言われるでしょ」
「あ?なんだ突然」
「高杉はいじわるだよ」
「そうか?」

そう答えると、彼女は俺の手を離して数メートル先に走っていく。離された手を名残惜しいと思ったけど、いじわると言われた仕返しだ、言うもんかと思った。

「そろそろ!」
「・・・あー?」
「そろそろ言ってくれてもいいんじゃないですかね!」
「あ?!・・・あー」
「手もつないだし、段階は既に記念日から一か月(ハート)みたいな人たちと変わらないと思うんですけどね!」

両手でメガホンを作るようにして俺に向かって叫ぶ彼女に歩いて追いつく。それにしてもハートマークの状態を体で表したこいつがちょっとかわいかった・・・。名前は今日これを言うつもりだったかどうかはわからないが、俺もそろそろ、とは思っていたのでここまでシンクロしてるとこれはもう一生一緒にいるしかないんじゃないだろうかと思う。

「そこ言うか?」
「だって高杉、マイペースだし」
「俺のタイミングってのがあるだろう」
「そんなの待ってたら年明けちゃうよ!」
「・・・じゃあ、」





あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします





「・・・新年のご挨拶が聞きたかったわけじゃない・・・」
「まァいいじゃねーか、今年も俺様と一緒が約束されたぞォ」
「私来月引っ越すから一年も一緒じゃないし」
「・・・嘘だろ?」
「うん、嘘」
「てめ、」













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本当は年明けに更新する予定が二月・・・今年もどうぞ下と吉をよろしくおねがいいたします。

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