数年前の今日は多分桜が満開だったんだろうな。代表的で感動的な合唱曲は桜散る風景を歌にしているものが多い。三月のカレンダーには既に花が咲いていて、後輩たちが涙ながらに渡してくれた寄せ書き似顔絵入りの色紙には桜の花びらが散っていた。


「卒業証書を授与される者、A組、」


高校三年間はあっけらかんとし過ぎて思い出と呼べる思い出など無く、多分この三年間と同じように一生が過ぎていくのだろうなとすら思えた。死ぬ間際に何とまあ何もない人生だったと振り返るのだろう。


「…、土方十四郎」

「ハイ」
「ぷっ」
「…」


私のとなりに立つ土方は最後の最後で声を裏返す。クラス中の奴らが教室で土方を馬鹿にするのを想像すると笑わずにはいられなかった。


「オイ笑うな」
「ご、ごめ…」
「…もう卒業だな」
「…ね。案外JKは何もないものだったなー」
「男なんか更にねーよ」
「ふふ、そうだね」


クラスメートが徐々にに名前を呼ばれて立ち上がる。もうすぐZ組も呼び終わってしまう頃だろう。この学校ともこの体育館とも担任とも、もう毎日会うことは無くなるのだ。全く実感は湧かない。


「俺、好きな女がいたんだ」
「…へぇ」
「昨日、卒業しても一緒にいてくれるか聞いたんだ、そしたらお前とは遊びだとバッサリフられた」
「土方をフる女なんかいい女じゃないよ」
「はは、ありがとよ」
「…また会いたいね皆で」
「だな」

「…着席。以上三五八名」


壇上には偉い先生がありがたい話を私たちに投げかけているが正直あまり耳には入らない。それより私は土方に好きな人がいたということが衝撃的だった。これは恋が片思いで終わる感覚によく似ている。

ああ、そうか。私は土方に恋をしていたのか。

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