私が彼に恋をしてないと言ったら嘘になるのだが、どうもこの気持ちを恋と呼ぶことには抵抗がある。美しいものに目がいってしまう感覚とおなじような曖昧な感情。


「これ百二十枚よろしく」
「ハイ」


 まだ私の助手に成り立ての彼は慣れない手つきでコピー機を操り、何百枚という枚数の紙を無駄にした。いくら才があるとはいえ、なんでも器量よくこなすようになるには時間がかかるようだ。そういえば彼は私に遣われる以外の時間を図書館で過ごしているらしい。


「今回は何?」
「ヤオビクニについて…」
「また通なものを調べるね百目鬼くんは」
「興味あるんで」
「なに?君はヤオビクニになりたいの?」


 彼は黙り込んでしまった。つかぬことを訊いてしまったと私も後悔したが、それでも知りたいと思った。彼が何故興味だけでここまで学以外のことまで学ぶのか。


「そうかも、しれないです」
「へぇ、何故?」
「友人が、長生きするから」


 これはたまげた。未だ見ぬ先のことが彼にはわかるのかと。明日死ぬ可能性のない人間など居ないはずなのに、彼は何故彼が話す友人が長生きすのかがわかるのだろうか。


「その友人は君にとって特別な存在のようだね」
「…」
「…まぁ、将来教授になる男がヤオビクニ知らないのはどうかと思うけどさ」


 私は図書館を後にし、自動販売機で缶コーヒーを買った。自動販売機の前にあるソファーに座りながら、彼の話す友人は多分彼にとってよほど大切なのだろう、とその友人に嫉妬によく似た感情を抱いた。










百目鬼誕生日おめでとう

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