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(沖田くんの彼女と安定)


沖田くんの彼女さんはいつも戦いに出る沖田くんの心配をしている。まあ、恋仲だというのだから当たり前の事だろう。刀である僕には、大事なひとが出来るというのは到底理解できない感情ではあるが。沖田くんや清光なんかは大事なんだけれど、色恋的な意味での大事、が僕には理解出来ないでいた。
沖田くんの彼女は笑った顔が花のような女子だった。僕を持って戦いへ出る沖田くんへのいってらっしゃい、は儚い微笑みで、忘れようとも忘れられるものではない。
沖田くんが少しでも傷を作って帰れば必ず手当をしたし、僕の事も濡れた手拭いで拭ってくれるような優しい女子でもあった。

そんな彼女が大事に思っていた沖田くんが死んだ。戦でもなく病で倒れて死んでいった。
彼女はもちろん悲しんでいた。それはそうだ、愛する人の死というものは残酷だ。僕も、僕なんかを使ってくれていた沖田くんがいなくなってしまって、なんとも言えない気分になった。涙は何故か出なかった。

彼女が泣きながらすごしていく中で僕や清光は遺品として扱われる。彼女は僕たちを整理しながら、またぽつんぽつんと涙を流すのだ。
それを見るたびに思う。僕が刀じゃなくてちゃんと人の手が、体があったのなら彼女の涙を拭ってあげられたんじゃないかって。でも僕はそうすることができない。そう出来ない事がもどかしい。胸のあたりが靄を纏っているように思えた。

僕にもこの感情の意味は分からない。審神者と出会い、付喪神としての姿を得た今の僕なら、彼女の涙を拭ってあげられるのになあ。全て知るには時間が遅すぎた。この感情の理由は、解らないまま蓋をしておこう。僕は彼女と沖田くんのことを考えながら少しだけ、自分の目から出た涙を拭った。

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