小説 | ナノ
(時代も何も無いです)
ねえ、主なにそれ!そう清光が嬉々として私に声をかけてくる。私の手のそれはリップクリームで、ただ単に薬用よりちょっと洒落ただけのもの。それに清光は興味を持ったらしい。清光は私のリップクリームを奪うと、可愛いやら綺麗やら言って天にかざしていた。そんな品の良いものではないのだけど。
清光が私のリップクリームの蓋を開けて、ねえ、付けていい?と言った所でぼんやりしていた脳が覚醒した。女の子ならまだしも、男の清光と間接キスになるなんて、と頭が考え出した時にはもう遅かった。
「ねえねえ主、かわいい?」
「付けたの?」
「そ。これすごいいい匂いがするね。果実の匂い」
清光はそれはもう嬉しそうに私に唇をむけた。かわいいでしょ、俺も似合うでしょ。そう言いながら。たしかに似合うし可愛いんだけれどリップクリームを握る彼の手は明らかに男の人のもので。
彼は私が狼狽しているのを見てくすりと笑って顔を近づけてきた。
「気付いてると思うけどさ、間接ちゅーだよ、主」
今度は本当にしちゃおっか、なんて言う彼に、私は顔を熱くしながらリップクリームを奪い取って本丸を走り回った。本当にされてしまったら、私は彼を好きになってしまいそうだったから。
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