小説 | ナノ


 兼さん兼さんと五月蝿い堀川くんが今日はいやに静かだった。本丸の縁側に座ってずっと空を眺めていて、皆が声をかけても上の空。極め付けは兼定さんがお声をかけても、放っておいてくださいと言ってまた空を見て呆ける、という事。皆からついに主の方から声をかけてくれとお呼びがかかったのだ。
 それは良いのだけれど、向こうが放っておけというのだから話しかけ辛いというものもある。後ろから感じる刀剣たちの頑張れ!という視線を受けて堀川くんの隣に座らせてもらった。本人は気付いていないようで、私が声をかけるとびくりと震えた。

「堀川くん、元気がないけどどうしたの?」
「えっ、あ、ああ、主……」

 彼は青ざめたような、頬が赤いような顔をして私を見る。風邪でもひいているのかな?とか、刀剣の付喪神でも風邪をひくのかしら、とか。そんなことが頭からよぎる。堀川くんは私の考えを読んだかのように風邪とかじゃないから、と少しぎこちなく笑った。

「あのさ、主」
「なあに?」
「もし僕が、貴方をほしくてたまらない、としたらどうしますか?」

 そう、真顔で言った。顔は青くなく、むしろ頬も鼻頭も、顔全体が赤く感じる。冗談じゃない、そう思った。彼は嘘がつけない人だから。そう思案していると彼は私の手をそっと握った。握られた部分から身体が熱を持って、今まで彼の事を男としてあまり意識していなかった私の頭が、心臓が、一気に沸騰した気がした。

「僕、みなさんに主を取られたくないんです。結構邪道なんだよ。知ってたでしょ?」

 お返事はいただきません。だってもう主は僕に夢中だからね。そう言って私の手の甲に口を付けた。私は私で後ろにいた皆の視線も忘れて胸のどきどきに集中するのだった。


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