小説 | ナノ
最近本丸にいちにいが来た。主とも仲良くなってくれたようで、ボクも嬉しかった。…最初は。今はなんだろう、近侍はボクであるのにいちにいと仲睦まじく話す主。それに嬉しそうに応えるいちにい。ボクはいつも置いてけぼりでひとりぼっちだ。主のいちばんはボクのものだったし、いちにいの一番はボクだったはず、なのに。
ボクは何を考えているんだろう。いつもいつも考える事は主の事だったし、いつもいつも主の事を考えて戦ってきたはずなのに。乱、そう呼んでくれる主の声。乱、そう呼んでくれるいちにいの声。どちらも今のボクには雑音になってしまって、いつもずきずきと胸が痛む。
ボクはどうしてしまったんだろう。ボクはどうしてこんなにどろどろした気持ちを持っているんだろう。ボクはどうしてこんなにも泣いてしまいそうなんだろう。どうして、どうして。
「苦しいよ、どうしたらいいの…主、…いちにい」
ボクの声は誰に届く事もなく夜の闇に消えていく。ボクもこの気持ちの答えが解らない。たぶん、ずっと、わかる事はない。だってもう、ボクも闇に消えていくから。
さようなら、あるじ。
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