小説 | ナノ


主が怪我をした、と乱が私に知らせて来た。近侍として仕えているというのに主が怪我をしたとなっては、ほかの者に合わせる顔がない、そう思いながら、主の怪我が大したことがないように願った。
襖をそっと開ければ、燭台切に手当を受けている主の姿。その小さな体に傷ひとつでもついただなんて。急いできた私の心配とは裏腹に主は笑っていた。

「みんなの畑仕事を手伝ってたら、転んじゃったの」
「主がいつもよりお転婆だったみたいでね。大丈夫だよ一期くん」

燭台切がにっこりと笑って、主にこれで手当は終わりだよ。と笑顔を振りまく。主はありがとうと声をかけて私の方にかけてきた。
「ごめんなさい、いそいできてくれたのに。ただ、擦りむいただけなの」そう笑って言った。それでも、そうだとしても、主の肌から血が流れたのだ。近侍としては耐えられる事ではない。

「主、血がで出ておられるようですが?」
「うう、でもね、ちょっとだけだよ?」
「でも、私は心配なのですよ」

主の小さな体を抱き上げて、本丸の廊下を歩き出す。一期くん、そう声をあげる主を後目に素知らぬ顔で進む。向かうは主の部屋。主の部屋についたら、主がどれだけ私にとって大きな存在か解らせねばありますまい。

「主、お覚悟を。私がどれだけ主を大事に思っているか、少し知って頂かなければならないようですな」

そう耳元で言ってやれば、主が真っ赤になるものだから。少しだけ主の部屋への道のりを急いでみようと思った。

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