>> 08

風邪を引いた。





今日は蔵に会う日なのに。

体温計の表示はありえないくらいの高熱をたたき出した。こんなに熱出したの何年ぶりだろ…

とりあえず蔵に電話しなきゃ。あ、でも喉痛いからメールの方がいいよね。どうせ電話なんて出ないだろうし。

蔵に、「風邪引いたから会えなくなっちゃった、ごめんね(;_;)」ってメールを送って起き上がる気力もなかったからまた眠る事にした。










しばらくして目が覚めたらなんだかいい匂い。しかもおでこがひんやりと冷たい。目を開けるとそこには居るはずもない彼がそこに居た。


「おっ、名前起きたんか。飯出来てるで」


熱のせいで頭がおかしくなってるのかもしれない。信じられない光景に固まっている私を見て彼は笑った。


「めっちゃアホ顔してんで」

「な、何で居るの!?」

「風邪引いたって言っとったから心配したで」

「…あ、りがとう。」


まさか蔵が私に会いに来るなんて思ってもみなかった。いつもの蔵なら私との約束を破るなんて当たり前だったし、私から断れば喜んで浮気相手に会いに行くんだろうと思っていたから。


「…まあ、あれや。最近ロクに構ってやれへんかったからその分の埋め合わせっちゅー事で」

「別に気にしてないよ?」

「俺が気にしてるからええの。…あ、ちょっと電話かかってきたから待っててな」


見なくても分かる、蔵の電話の相手なんて。でも私は精一杯知らないフリをする。蔵のため。…ううん、自分のため。蔵に離れて行って欲しくないから。これは単なる我が儘で自己防衛。


「ごめんな、今友達の家に居んねん」


蔵のばか。この部屋壁薄いんだから、トイレに行っても会話が少し聞こえるんだよ。


「友達が風邪引いたんや。…謙也や謙也。いつも話してるやろ?」


ああ私は謙也くんなんですか。全然足早くないよ私。髪だって謙也くんみたいにあんなに色抜いてない、し…

あ、涙が出てきた。

結局私は2番目の女なんだ。ううん、2番目にすらなれてないかも。蔵にとって私の存在って何なんだろう。





その時丁度携帯が鳴った。光からのメール。「風邪大丈夫なん?」私は「大丈夫だよ。ちょっとまだ怠いけど」と返した。

蔵は長電話になってるみたいでさっきから好きやで、とか早よ会いたいわ、とか愛の言葉をあの子に囁いていた。

蔵に愛されてるあの子が羨ましい。ねえ蔵は私の事、愛してる…?





「名前すまん、謙也に呼び出されたから行ってくるわ」

「…ん、わかった。」

「ちゃんと暖かくして寝るんやで?飯もちゃんと食ってな」

「分かってるよ、ありがとう」





ほな行ってくるわ、そう言って蔵がドアを開けた瞬間。


「…え?」


ドアの向こうに居たのは光だった。


「財前、何でここに居るん…」





歯車が、回り始めた。





20110607

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