>> 19

帰ってきてまず驚いたこと。俺が名前んち出てからそんなに時間経ってへんのに、鍵が合わない。

この数時間で変えられたんやろか。


「名前、名前!居るんやろ!」


ドアをドンドンと叩きながら中に居るはずの名前に話しかけた。

するとチェーンをかけたまま名前がドアを開けて泣きながらこっちを見ていた。


「光…、あのね、私謝らなきゃいけないことが…」

「知っとる。白石さんに会ってたんやろ?俺そんなんで怒らへんよ」

「これ以上光と居るとダメなの…今までみたいにまた痛いだけのエッチ…したくないし…」

「それもせえへんから。名前、どないしたん?俺は許すって言うてるんやで。」


中に居る名前に手を伸ばしても、名前がその手に触れることはなかった。

ただ名前は泣きながら、必死に俺に何かを伝えようとしていて。咄嗟に、近づいている別れを予感してしまった。


「嘘、やろ?俺名前の事こんなに好きなんやで?」

「ごめん、なさい、ごめ、んなさい…っ」

「お前、また浮気されるかもしれへんよ?」

「それでも、いいの…っ、私は、蔵を信じる…、から。」


そう言った名前は以前みたいに何もかも諦めかけている感じではなくて。意志の強さを感じた。今も弱々しいけど、あの頃の弱さとは全然違う気がした。


「ごめん、ね…私、蔵が好きなの…っ」

「名前…」

「やっぱり蔵じゃないと駄目なの…。裏切って、ごめんなさい…」


俺も…、俺もお前やないとアカンねんで?ずっと名前が好きで、白石さんと付き合っててもいつか俺んトコ来てくれるって思ってて…

…これは俺が招いた結果なんか?「浮気」した奴にやっぱり神様は罰を与えるんやろうか。俺も…裕美も…。白石さんも名前も同じはずなのに、何で俺は報われないん?


「でも、光の事好きだった。大好きだった。赤ちゃんの父親になるって言ってくれて嬉しかったよ。」


そんな顔で、今さら俺に好きなんて言わんといて。


「光も、好きなの…。でも、私はやっぱり蔵が好きだから…」


俺も好きや。名前、愛してんで。せやけどこれで終いやな。


「もう言わんでええよ。名前…、次浮気したら殺すって、白石さんに言うといて」

「うん…、うん…っ」


名前は今まで見た事もないくらい泣いて、それでもドアのチェーンを外すことはしなかった。名前なりの決意なんかは分からんけど。せやけど俺も、名前も、前を向かなアカン。


「浮気されたらまた俺んトコ来てええで。」

「うん…っ、光がくれた指輪、まだ持ってていい?」

「当たり前やろ。俺の貯金ほぼ使った指輪なんやから、大事にしてや」

「あと…、また友達として、会っていいよね…?」

「…しゃーないっすわ。そん時は今日のお詫びに飯でも奢ってくださいよ、名前さん」


愛してたから、名前をホンマに愛していたから。この恋は、もう終わりにせなアカン。

でもな、名前。俺は名前の事友達なんて思えへん。せやからずっと好きでおるくらいええやろ?

好きやから好きな奴には笑っていて欲しい。泣いてほしくない。それが俺の願いやで、名前。

白石さんと幸せに…なんて癪やから死んでも言わんけど。





20110722



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