>> 09

「蔵、どうしたの?」

「ああ…。名前すまん」

「名前…?」

「…、何でもあらへん。ごめんな、裕美」

「彼女とまだ別れないの?」

「ああ…なるべく早めに、するから…」

「私早く蔵を独り占めしたいよ。蔵が好きだから」

「ああ。俺も好きやで…裕美」


俺の罪は消えない。ずっとずっとこの先も。それでも俺は名前も裕美も愛してる。どちらも失うのが、今は怖い…










名前の看病に来ていたものの、裕美が会いたいと電話をしてきたから会いに行く事にした。

けど、ドアを開けたら財前が立っていた。何故、財前がここに居るんだろう。


「名前さん、大丈夫っすか」

「光…?うん、大丈夫。来てくれたんだね」

「…財前、お前何でここに居るんや」


財前は俺を見ながら小馬鹿にするような表情で言った。


「名前さん、ここ何日か具合悪いって言うてたからっすわ。俺がたまに来て看病しとったんです」

「名前が風邪引いたのは今日からやなかったんか?」

「…何も知らないんすね。名前さん何日か前から吐き気が収まらんって言うてましたよ」


連続的に続く吐き気。…まさか。

名前は、妊娠してる…?財前は暗にそう言いたかったんだろう。



名前が妊娠しているんだったら父親は多分、俺。それか…


「って訳で今日は病院連れて行きますんで、先輩はお先に出といてください」

「名前…、」



父親は、誰なんや?

その一言が言えなかった。俺は浮気をしている。名前を裏切っている。例え名前が浮気をしていたとしても俺にはそれを聞く権利なんて無かった。



だから俺は、覚悟を決めた。


「財前すまん、名前は俺が病院に連れて行くわ」

「くら…」

「気付いてやれなくてごめんな…。俺、ちゃんと覚悟決めるから」

「ごめん…っ、」


名前は泣いていた。

裕美とはもう別れよう。これ以上辛い思いさせたら名前にもお腹の子にも悪影響を与えるから。

父親として、しっかりやるべき事をしよう。


「…白石先輩、その前に話したい事あるんでちょっと外出れます?」

「ん、わかった」


たぶん名前の浮気の事、なんだろう。今日全てを察した気がした。たぶん名前の浮気相手は、財前…。











「これ、何だか分かります?」


財前に見せられた写真に絶句した。

そこに写っていたのは裸の名前…しかも精液まみれの。


「まんこからも精液垂れ流しててヤラシイやろ?」

「財前、お前…」

「中出しした事ないんやろ?名前さんに全部聞いたわ。中に出してないんやったら妊娠なんてほぼするわけないやろ。俺は2回も中に出したで。精子逃がさんように、ちゃんと奥で出してやったで」


信じたくなかった。財前が名前の浮気相手という事を。

絶望は更に追い撃ちをかける。俺は名前に中出ししたことはない。でも生ではしてたからそのせいで子供が出来たと思っていた、反面…父親は俺じゃないのではないかという疑心。それが見事に当たってしまった。

名前の言ってたごめんの意味は財前と浮気して子供を作ってごめんなさい、という事なのだろうか。


「せやから、名前は俺がもらいます。先輩はあの女と幸せになってください」

「財前、お前…!知ってたんか…」

「名前も知ってます。もうずっと前から。あんたが浮気して、名前がそれを知って俺がその弱みに漬け込んだだけっすよ。せやから、名前を責めんといてください。名前は悪くないんすよ」


お前が全て悪い、名前のために別れろ、と言われてる気がした。

もう別れるしかないのか。俺にはもう名前を幸せにする権利なんて無いのか。誰か教えてくれ。





20110611


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