「そういや、この前名前にそっくりな奴見かけたぜぃ。」
部活前にブンちゃんに話し掛けられた。
「…どこで見たんじゃ」
その名前は、忘れたくても忘れられなかった。それほどに名前の存在は俺の中で大きくなっていた。
「この前氷帝の偵察に行った時。偶然名前によく似た奴を見かけたんだよ。ただ、髪が超キンパんなってて化粧も前と違うんだよなー。」
名前…、俺から逃げるようにして姿を消してもうすぐ1ヶ月。思い当たるトコは一通り探したはずなんに、会えたのは偶然見かけたあの時だけじゃった。
「髪は染めればええし、化粧なんか変えようと思えば好きなだけ変えられるじゃろ。」
それに名前みたいな美人な奴、そう簡単には居ると思えん。
「たださー…、たぶん氷帝の制服着てたから自信ないんだよな」
ああ、あの制服は氷帝のじゃったんか。
まだクラス名簿に名前の名前はあるし、名前の席だってある。先生達も出席を取る時は名前の名前を呼ぶ。でも、たぶんそれは俺を欺くためなんじゃろ。詐欺師が逆にペテンにかけられたっちゅー話…か。
「だから他人の空似だと思ったんだけど…」
「いや、たぶんブンちゃんが見たのは名前本人ぜよ」
「え、だって名前は学校に来てないだけでまだ立海の生徒だろ?」
「そんなモン、教師と口裏合わせときゃいいじゃろ。いくらでも方法はあるぜよ」
前に名前と偶然会ったんも東京都内。名前が氷帝に転校したのは間違いない…か。
名前が姿を消したのと同時に携帯を変えたのは知っていた。でも親しかった友人が名前の新しい連絡先を知っていて、好都合な事にその友達は俺に惚れてたから一度抱いてやったら名前の番号をあっさりと教えてくれて。
馬鹿な女ぜよ。もちろん、一度だけですぐに捨ててやったんは、言うまでもない。
しかし名前は俺があの日呼び出した後、また携帯を変えたようでもう俺には手の出しようがなかった。だから手がかりをくれた丸井には感謝したいところじゃ。
「ブンちゃん…、」
「分かってるよ。名前のトコ行くんだろぃ。真田には上手く言っといてやるから」
「恩に着るぜよ。」
足早に電車に乗り、氷帝へ向かった。
名前は俺のモンじゃ、誰にもやらん。俺から逃げるなんて許さんぜよ、名前。
氷帝の正門前。着いた時にはもう部活が終わるくらいの時間になっていた。
名前が部活なんてやってるわけがないから会えるわけがない…が、名前の情報を聞くくらいは出来る。しかも丁度良いタイミングで氷帝テニス部の奴らが出て来た。
「あれ、あの銀髪は…」
「仁王!お前何やってんだよー!」
向日と宍戸が俺に気付いて寄ってきた。
「ちょっと、人探ししててな」
「人探し?」
俺らでよかったら協力するよ、と良心的な氷帝テニス部。
「苗字名前って奴が転校して来たと思うんじゃが…」
「苗字ってあのキンパの転校生?」
ああ、間違いない。名前は氷帝に居る。立海から氷帝に転入したんじゃ…俺から逃げる為に。
「あいつがどうしたんだよ?」
「ああ、ちょっと訳あって探してるんよ」
やっと名前の手がかり、いや確証を見つけた。
「俺は全く接点ねーけど、忍足と話してる姿は見たことあるぜ。まあ残念ながら忍足はさっき大急ぎで帰っちまったけどな」
「そうか、ならまた来るぜよ。ありがとさん。」
明日の今頃はきっと名前は俺の下で鳴いているのだろう。そう考えると笑いが止まらなかった。
もう逃がさんぜよ、名前…
2010.10.11