さて俺は今、転校生ちゃんと一緒に帰ってるわけなんやけど。

会話が全くない…!

転校生ちゃんはホンマに喋らん子で、でもこの空気を気まずいとも思ってない感じやった。

凄い子や…。


「そういや転校生ちゃん、どっから来たん?」

「…秘密。」

「…」


いや、会話終わったし。


「でも標準語って事はこの辺やろ?」

「…関東のどこか。」


アカン、会話が広がらん。
これじゃ俺が一方的にボール投げてるだけやん。会話のキャッチボールがまるで成立してへん。


「…転校生ちゃんは俺の事何も聞いてくれないん?」

「ああごめん、えーっ…とーっ…」


あ、超悩んどる。

…この子、俺に全く興味ないんやな。やっぱ珍しい。俺の事に全く興味示さない女なんて。


「忍足くん、部活やってんの?」

「ああ、テニスやってるで。」

「えっ…」

「え、どないしたん」


何や、テニスでこんな反応示すなんて意外やったわ。
そういえば転校生ちゃんは前の学校では何か部活やってたんかな。華奢やから、文化部か…いや、部活すらやってないかもしれへん。不良やもん。見た目が。

俺は数少ない会話の中でいつの間にか転校生ちゃんに興味を抱くようになった。

何でやろ。分からんけど何か惹かれるもの持ってんねん、この子。不思議ちゃんや。


「テニスやってるん、意外やった?」

「ま、まぁ…」


転校生ちゃんの様子が明らかにおかしい。


「あ、ここが駅だよね。ありがとう、一緒に来てくれて。じゃあっ」

「すごい逃げ方やなー」


転校生ちゃんはそそくさと改札を通って足早にホームへと向かった。

…って、俺と帰る方向一緒やん。しゃーないな、と思っていたものの心は不思議と弾んでいた。





いやいや、ちゃうんや。この時間めっちゃ電車混んでんねや。帰宅ラッシュやねん。慣れない土地で超満員電車で、痴漢にでも合うたら俺の責任になるやん。

転校生ちゃんを追いかけて発車寸前の電車に乗る。
あ、転校生ちゃんや。奇跡的に同じ車両に乗れて隣をキープ出来た。


「転校生ちゃん」

「忍足…くん」

「間に合うて良かったわ。この時間めっちゃ混んでるから女の子一人やと危ないで」

「別にこれくらい大丈夫だよ。夜道一人で歩いてるわけじゃないんだし。」


可愛くない奴やなー、ホンマに。
でもこんな混んでる電車にこんな美少女一人で乗せるわけにはいかん。

ホンマに痴漢に合うたらどうするんや…



って思ってた、数分後。

転校生ちゃんの様子が明らかにおかしい。
顔を真っ赤にして俯いてる。俺がどうしたん?って聞いたら黙ったまま、また俯いた。

まさか…。

ふと下に目をやると、若めのサラリーマンに痴漢されとった。

スカートの中に手を入れられて、弄られていた。
細い体がぴくん、ぴくんと動く。


「んっ…」


転校生ちゃんは感じてるのか、声を上げ始めた。

何や、転校生ちゃん、淫乱な子やったん…?
嫌がってるはずやのに感じてる転校生ちゃんを見て、俺の下半身も自然と熱くなる。

最低や、俺は。不謹慎極まりないわ。でも目の前のこの子が可愛くて仕方ないねん。


「ゃぁっ…!」


この声でハッと我に返った。

このクソリーマン、転校生ちゃんのパンツの中に手入れやがってん。

さすがに俺もキレたからリーマンの首を掴んで耳元で周りに聞こえないように、囁く。


「自分、俺の女に何してんねん。」

「ひっ…」


ちょうど電車が停車し駅に着いて、クソリーマンはダッシュで逃げていった。


「あんのクソ野郎…!」


追いかけようとしたら、転校生ちゃんにブレザーの裾を掴まれた。


「待って、行かないで…」


一人にしないで、と目に涙を浮かべていた。

…いくらあんだけ大丈夫言うてても痴漢は怖いよなぁ。俺はよしよし、と転校生ちゃんの頭を撫でてやった。


「転校生ちゃん、家どこなん?心配やから送るわ」

「…もうとっくに過ぎちゃった」

「えっ!?ホンマか!?ごめんな、気づかなくて…」


戻るって言うてもまた電車乗せるのもアレやし。せめてもう少し時間置かないとあかんな。

せやけど、どうすれば…



………


「転校生ちゃん、俺んち来るか?」


俺んちの最寄りまであと一駅。あとで跡部に頼んで車出してもらえばええよな。

でもさっき痴漢に合うてた子が今日知り合ったばかりのクラスメイトの家にいきなり来れるモンか…?


「あとで車で家まで送ったるから」

「え、ホントに??じゃあお世話になります。」


車、という単語で食いついてきたんか、転校生ちゃんはあっさりOKを出した。

ああ何や、随分とあっさりやな。


「助かったよー、私の家駅から遠くてバスでさ。本数少ないから本当良かった」


さっきまで痴漢されてた子とは思えんくらい、うきうきしとった。

相当家帰るのが面倒なんかな…。男の家に行くっちゅー事が分かってへんのやろか。せやけど誘ったんは俺やから何も言えへんわ。しかも絶対ある事実に気付いてないんやろな…、まぁ言うてないし。



…俺、一人暮らしやねんけどなぁ。



「ほな行こか、転校生ちゃん」

「…苗字です」





20101008



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