ドアの向こうで香ばしい匂いと甘い匂いが立ち込める。

侑士は本当に早起きだなぁ、と毎朝感心しながらずれた布団をまたかぶった。向こうからはドタドタと足音が聞こえる。


「名前ー!朝やでー!」

「あーはいはい、朝からうるさいな侑士は…」

「せやかて、遅刻してまうやろ」

「…あたしは学校明日からなんですけど」

「そんなん知っとるわ。でも旦那様の登校ぐらい見送らんかい」

「うー…めんどくさい」


悩みに悩み抜いた結果、あたしは太郎ちゃんの好意に甘えて立海大学に入学した。

侑士と同じ大学行きたかった気持ちはあるけど、雅治としたこの約束だけは守りたかった。


「しかし寂しいモンやなー…名前が氷帝におらんなんて」

「3年の時クラス違ったしそんなに関わってないから変わらないでしょ」

「せやけど…近くにおらんなんて寂しいやん」


侑士があたしを抱きしめた。侑士は超が付くほどの甘えん坊さん。改めて学校に居る時とのギャップを感じる。


「名前、ほないってきます」

「いってらっしゃい侑士」





雅治とはあれから一切会っていないし連絡も取っていない。

でも入学前のオリエンテーションで、テニスに没頭しているという事だけは聞いていた。


「あ、名前、ちょい待ち」

「ん?、ん、んんうー!」

「いってきますのベロチューや」

「…ばか」





これが正しい道かなんて分からないけど、ただ今は大好きな人と笑って一緒にいれたらそれで良い。

傷付けた雅治の分まで、あたしは幸せになる。










「あっれ、名前じゃん」

「あ、丸井くん。久しぶり」


入学式で以前怖い思いをさせられた人物にばったり遭遇。でも今はもう大丈夫。普通に、同じ大学の友人として接する事が出来る。


「…あん時はごめん」

「もう気にしてないよ。」

「あー…なら良かった。そういや、仁王に会った?」

「んーん。会ってない。」

「ふーん、じゃあちょっとついて来いよ」


そう言われて案内されたのは大学のテニスコート。中では、雅治がスーツで打ち合いをしていた。


「名前…」

「雅治、凄いね。前より全然上手くなってる気がする」

「当たり前ナリ、死ぬほど練習したんじゃから」

「あ、あのさ…」

「ん?」

「たまに試合見に行くくらいは、してもいいかな…?」

「ええよ。たまにと言わずいっぱい来んしゃい…忍足も一緒にな」

「へへ、ありがとー。」










またいつかあなたと道を共にする日が来たら、その時は笑って、あなたに伝えたい。





20110407

侑士オチなんですが雅治ともまた惹かれ合うかもしれないよーっていう微妙なオチ。ごめんなさい終わり方全く考えてないのに始めちゃった連載なんです。

長い間読んで頂いてありがとうございました。初の長編がこんな終わり方になってしまいすみません…。

また気が向いたら続編とか書くかもしれません。

イノセント・ワードを今まで読んで頂いて、ありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。


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