とにかく走った。
普段あんまり運動なんてしないし日常でも走ることなんてないから慣れなくて、ものの数秒で息切れ。
でも急がなきゃ。雅治が死んじゃう。
よく考えたら、あたしちゃんとお別れしてない。一方的にあたしが雅治から離れて、勝手に侑士と付き合って…、よく考えたらあたしも雅治の事言えないんじゃないか、そんな気がしてきた。
しばらく考えながら走ってるうちに目的の場所へ着いた。
そこはかつてあたしが通っていた…立海の屋上。雅治に初めて犯された場所。
「雅治っ!」
「名前…」
来てくれたんか、と言う雅治はフェンスの向こうに腰をかけていた。少しでもバランスを崩したら落ちそうで…
「雅治危ないよっ…、お願いだからこっちに来て…っ」
いくら憎んでいても、かつて愛した人だから。大好きだった人だから…死んでほしくなんてない。
「名前、今までごめんな」
「もういいから…っ」
雅治のこんな姿見たことない。涙を浮かべてあたしを見ている。雅治にこんなに弱いところがあったなんて…逆にあたしが泣けてきた。ていうか、既にぼろ泣き状態。
「雅治、だからお願い…」
死なないで。
早くこっちに来て。
「でも、名前はもう戻ってこないぜよ」
「…!」
「もうお前は俺より忍足が好きなんじゃろ?」
そうだよ、なんて言えない。だって今の雅治にそんな事言ったら、確実に飛び降りてしまうから。
「もうええよ、名前。俺はどうやったって、名前を諦めきれん。でも名前は戻ってこない、だったら…死んだ方がマシぜよ」
「雅治…」
「忍足と幸せになるんよ?」
「やだ…雅治、死なないで…」
「それは無理なお願いじゃな…」
雅治は笑ってフェンス越しにあたしの頭を撫で、じゃあな、と言った。
それなら、それだったら。
あたしのせいで人が死ぬなら。
あたしは…、
「雅治、あたし雅治のトコに戻るから」
「名前…お前忍足は…」
「もういいの。雅治が死んじゃう方がやだよ。」
フェンスの向こうに手を伸ばして、雅治を後ろから抱きしめた。
「雅治、死なないで…」
侑士、ごめんね。
20100107