いつからだろう、名前を好きになっていたのは。
「仁王、お前何かあったの?」
「何でじゃ?」
「ウゼェくらい顔に出てんだよ」
ああ、そうかもしれん。名前を取られて、忍足に負けて…。
何でこうも全てが上手くいかない。俺はただ、名前を愛してただけなんに…
「どうせ名前絡みだろぃ。いい加減はっきり伝えろよ、名前が好きだって。あと今までの事も謝ればいい」
…それが出来てたらこんなに苦労しとらんよ、ブンちゃん。
あの日、忍足の強い眼差しから動けんくなってしまって、名前を離してしまった。アイツは迷うことなく名前に愛してると言ってやれてたから…
遅すぎたのかもしれない。名前を好きだと気付くのが。もうずっと前から名前を好きだった。愛していた、と思う。
だから、縛りつけておきたかった。逃げないように捕まえておきたかった。けど、素直にそれを言えんかった。俺の弱さが招いた事やった。けど、諦めがつかん。
もう名前じゃないと愛せん。アイツ以外の奴を抱いても心が満たされやしない。むしろもっと名前を欲しくなる。
居なくなってから初めて気づかされた。俺は、名前を愛してるたから手放したくなかったという事に。
「名前、完全に忍足のモンになっちまったんだろぃ?」
「信じたくないけど、その通りぜよ」
「あーあ。仁王ドンマイ。」
「プリッ」
今俺が愛してると告げれば、名前は俺を見てくれるのだろうか。いや、それはない。アイツは俺を怖がっている。そんな事を言って信じてもらえるとは思えん。俺に怯えていたから、転校した。それは紛れもない事実じゃ。
「あーっ…!もう悩む暇あったら名前んトコ行って気持ち伝えて来いよ!」
「…俺にはそんな大それた事出来ん」
「意外と女々しいのな」
「無理なモンは無理じゃ」
「あーウゼェ、そんなんだから名前に振られんだよ」
…その通りかもしれん。気持ちも伝えずにただの性奴隷にして縛りつけて、テニス部の奴らにさんざん犯させて…でも。
でも…。
「でも、俺は名前を諦めきれん」
「おう。」
「気持ちを素直に伝えるのも、難しいかもしれん」
「…おう。」
「だから、俺は俺のやり方で名前を連れ戻す」
「おう。……………え」
俺にはやっぱり俺のやり方で名前に伝える事しか出来ん。
「お前のやり方って…また脅して無理矢理セックスして縛り付ける…とか?」
「そんな事はしないぜよ」
「…まぁとにかく頑張って来いよ。お前、伊達に詐欺師って呼ばれてるんじゃねーんだからよい」
「当たり前じゃ、絶対に連れ戻してくるナリー」
俺は名前を確実に奪って、帰ってくるぜよ。覚悟しておきんしゃい、名前、忍足。
20101219