「おーい坂田ぁ、今からカラオケ行くけど、来るよなァ」


放課後、傾きはじめた太陽が教室を橙に染めている。
呼ばれた少女は、振り返る。


「坂田言うな馬鹿!!メンバー誰?」

「俺」

「行かない」

「嘘でさァ。土方も誘っておきやした」

「え、トシちゃんも行くの?」


まるで仔犬のように、沖田と土方の元に走り寄る姿は愛らしい。
少女は、自分より背の高い土方の顔を覗き込んで、もう一度同じことを聞いた。


「トシちゃんも行くんだ?」

「お、おう」


頷く土方を見て、嬉しそうな表情を隠さない。
それを見ていた担任――坂田銀八は怠そうにあくびを一つ。


「おーい、良い子は早く帰りなさーい」

「こーゆーときだけ教師面すんじゃねーや」

「はい、沖田くん補修ぅー」


ダラダラと教室を出る一行。最後尾を歩く少女は、「あああぁああ!!!!」と声をあげた。
それを聞いて立ち止まったのは生徒のみで、銀八はやっぱりダラダラと歩いていた。


「ゴメン、今日夕飯当番なんだっ!!また次誘って」

「何でィ。お前がいねーと盛り上がんねーや。なぁ、土方死ね」

「おぃいい!!俺の呼び方、大変なことになってんだけどぉおお!!」

「まじ、ごめん」


パンっと手を合わせて、少女はパタパタと廊下を駆け出した。小さくなる後ろ姿を見送る。

ふと、少女は振り返って、遠くからでも分かるくらいの満面の笑みで手を振った。
沖田は「帰り道で派手に転べばーか」と言った。
(訳:気をつけて帰ればーか)

土方は、勝手にニヤつく口を隠すように、片手で口を覆い、もう片方の手で小さく手を振った。


途中、少女は銀八の背中を見付けた。


「先生、さよーなら」

「おう」


坂田さんの放課後
(今夜は煮魚にしよー)





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