「はぁ…」
ため息を漏らしながら、玄関に入る。靴を脱いでると、トントントン、と小気味の良い包丁の音がした。
鼻をくすぐる煮魚の匂いは、仕事で疲れた身体に空腹を思い出させた。
「あ、お帰りなさい。お風呂沸いてるから入っちゃって下さい」
「おう」
コイツ――坂田 千緒は、制服にエプロンという姿で料理の手を止めて、銀八を迎えた。
脱衣所に向かうと、言った通り風呂は沸いていた。出来た女だよな、とか思いながら風呂に肩まで浸かる。
30分もしない内に風呂から上がると、ちゃんとバスタオルと着替えが置かれてる。いつもなら、当たり前の事と気にしないが、昼間の出来事のせいで、しみじみと思ってしまった。
いやいやいやいやいや、待て待て。アイツと俺って、そんな関係じゃねーし。同居してんのも、そんな関係じゃねーし。アイツにゃ片思い中の奴、いるし。
グダグダ考えながら着替えて、グダグダ考えながら部屋に入ると、アイツは食事に手もつけず、テレビを観ていた。
出来た女だよなあ。
「あ、先生、早く食べよー冷めちゃうよ!!」
「ん、ああ」
「あ、先生………ズボン、逆だよ」
「あ…………、今、流行ってんだよ」
「……………」
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