――…大会当日

公園には、老若男女問わず沢山の参加者がいた。
この大会のルールは、実際の剣道のものではなく、「気絶」か「降伏」させれば勝ち、というものだ。
いわゆる、剣道というよりチャンバラごっこですね。


私は、銀さん達には「ちょっと散歩」なんてベタな嘘をついて来てしまった。
要するに、内緒で来ました。でも、これで優勝したら、今日は焼肉にでもすればみんな喜ぶに違いない。



「女ァ、テメェ試合に集中しやがれ」


「ああ、すみません。優勝したときの賞金の使い道を考えてました」



今は試合中。相手は大柄の男。名前は忘れてしまった。しかしお相手様は、私の言葉でお怒りらしい。
一撃の振りが大きい。動きも単純。



「剣はなぁ、女が使うもんじゃねぇんだよ!!」



風を切る音が耳を掠める。



「ちッ、外したか」


「オッサンこそ集中したら?お胸ががら空きよ」



目線が私に定まらない内に、相手の間合いに踏み込む。相手が構えている腕より下に姿勢を低くし、木刀を胸目掛けて突き刺す。

倒れた相手の上に乗り、喉元に鋒を突き立てる。



「はい、死亡ーぅ」


「こ、こんなの剣道じゃねぇッ」


「あれー?この大会のルール、覚えてます?剣道の形式的なルールは関係なく、相手を気絶させるか、降伏させるか、ですよ?さて、気絶ー…したいですか?」


「こ、ここ降参します」



…とまぁ、こんな調子で勝ち進んでいった。

疲れてはいないが、久しぶりに木刀を握ったせいか、手のひらにはマメが幾つか出来て、潰れていた。
正直、もう木刀は握れない。

私は、包帯で木刀と手をぐるぐると巻き付けて固定した。



「これで取れない」


「何が"これで取れない"だ。ボロボロじゃねーか」


「ぎ、銀さん…神楽ちゃんに新八っつぁん」


「何で黙って、大会なんかに出てるんですか」


「賞金独り占めアルカ?」


「違う違う。賞金で、少しでも生活が楽になればいいかなーってさ」



私が笑うと、銀さんがポンポンと頭を撫でてきた。
あまりに突然で、私は動揺してしまった。だって、最近先生は頭を撫でたりしないから。てか、何で動揺してるの私ッ。



「お前は、そういうのは気にしなくて良いんだよ」


「は、はい…」


「お、そろそろじゃねーの?」



銀さんの言う通り、次の試合の案内放送が流れた。
ちなみに、次は決勝だ。



((決勝進出の、坂田千緒選手と沖田総悟選手は試合が始まりますので、選手の方は選手控え室までお願いします))



何故か空気が凍った。





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