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「いいか、俺はお母さんだからな。"ママ"と呼ぶんだ。エリザベスのことは"パパ"と呼べ」

「は、はぁ…」


ヅラは私と親子のフリをして、この万事屋に潜入したいらしい。
普通に訪ねれば良いのに、という言葉はあえて言わなかった。


「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺は桂小太郎。攘夷志士をやっている」


もう、知人らしい人に初対面みたいに接されるのには慣れたらしい。
私は少し「はぁ」と息を吐いて、答えた。


「千緒」

「千緒…?」

「何?私の事わかるの?」


私は期待半分で聞いてみる。ヅラはしばらく考えた後、真顔で口を開いた。


「……ダメだ。思い出せんな」


言葉と一緒に視線も外す。わかってはいたけど、心が一気に冷やされた気分になった。


「お前ら人ん家の前でなにたむろってんですか?つーかヅラ、お前は自分の立場をわきまえろ。むしろ捕まれ。」


肩を落とした私の後ろに立っていたのは、着物を個性的に着こなしている天パだった。


「あ、ジャンプの臭いがする」


奴は私がジャンプを持ってることがわかるのか、まるで犬のように鼻をスンスンと鳴らす。


「あっジ ャ ン プ の 臭 い が す る」


私は、奴が私を知らない可能性の方が高いかもしれないのに、いやむしろ知らない方が常識みたいなんだけど。


「ていっ!!」


ズゴスッ!!


「ごふぁっ!!………〜〜〜っ!!鞄の角が銀さんの高い鼻にクリティカルヒットした」

「見事なコントロールだな。ホームランだ。」

「スッキリした。で、先生にそっくりさん、私は千緒と言います。どうせ知らないんでしょう?」


とりあえず、殴りたかった。





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