「今日は、ハム子が休み…、と」


「まだ、いたのか名前」


「ヅラこそ、まだいたの?」


「ヅラじゃない桂だ」



放課後に静かな教室で日誌を書いているとヅラ……桂小太郎が私の隣の席に座ってきた。



「高杉も日直ではなかったか?」


「あー、アイツなら帰ったよ。なんでも、今日は算盤検定なんだって」


「……そうか。では、俺も帰るとしよう。エリザベスが待っているからな」


「あ、そッ。じゃーねー」



ヅラは教室を出る前に「あ、言い忘れていたが」と真剣な顔をした。



「最近、若者狙いの変質者がこの辺に出るらしい。なんでも、教われた者は魂を抜かれてしまうようだ。名前も気を付けろ」


「はいはい」



心配なら送ってくれても良いじゃない、というのは言わずにヅラを見送った。




―――――…




「あーあ、こんな時間」



日誌を渡すときに銀八先生と話し込んでしまったうえに、すっかり夜になってしまった。



「先生まで気を付けろ…って。………………ないない。」



そんなことを言いながら歩いていると、裏道から「うわぁあああ」という悲鳴が裏道から聞こえてきたではないか。

まさかッ、と思いながら野次馬心を燃やしながらその場所に向かう。



「うわぁああああ……あ」



そこには、おかしな着物を着た化け物に襲われている友達の志村新八がいた。
しかも新八っつぁんの周りは光に包まれ、何か白い玉のようなものが口から出ていた。



「し、新八っつぁん!!……ぁ」



あろうことか、つい大声を出してしまった。時既に遅し。



「見たな…。お前の侍魂も奪ってくれるわ!!ゲギャギャギャ!!」



敵の手があと数ミリで届く寸前で、その手は包帯らしき布で止められた。



「待ちやがれ。地味キャラを最初に狙うたぁ、おもしれぇ…ククク。セーラーエロス、只今参上」


「ヅラじゃない桂だ。あ、違、セーラーカツーラ、可憐に見参」


「「志士に変わって天誅だ☆」」



セーラー服で決めポーズをやりきる怪しげな二人組―――否、高杉とヅラ。



「名前早く逃げるのだ。ここは俺たちに任せろ」


隠してるつもりなのだろうか。ツッコミ待ちなのだろうか。つっこんだほうが良いかな。いや隠してるつもりかもしれないから…。


悩みに悩み抜いていると、どうやら二人は苦戦しているみたいで、絶体絶命の窮地に陥っていた。



「ヅラッ!!高杉ぃッ!!」



二人に絡みつく触手的何かを外そうと駆け寄ると、案の定敵の手…ではなく触手に捕まってしまったではないか。しかも首。足が地面から浮いてるため、もろに首吊り状態。

ああ、もうダメだ。


薄れる意識の中、私の耳に直接声が入ってきた。



――《僕と契約して、セーラー戦士になってよ☆》――



瞬間、今私が言わなければいけない言葉が頭に浮かぶ。



「ジョーイパワー・メークアップ!!」



すると不思議なリボンが私を包み、訳のわからないエフェクトが私と周囲を隔離させる。
体が勝手にくるくると回る。目も回る。



「名前が…セーラー戦士…だと」


「ククク、おもしれぇ…」



なんて、二人は感嘆の声を漏らす。助けろコルァ。

訳のわからない時間は30秒程で終了した。気がつくと私は…………何も変わっていなかった。いや、強いていうなら腰に刀がぶら下がってるぐらいか。あと胸にリボンがお粗末に結ばれている。



「おー定春間に合ったアルカ!!」


「わん」

「さっきの声は定春だったの!?」


「そうアル!!私はセーラーラビット!!セーラージョーイ、早く敵のアーマントを倒すアル!!」


「う、うん」



私はセーラーラビット……(明らかに)神楽ちゃんに促されるまま、敵のアーマントを倒す掛け声を叫ぶ。刀の鞘を抜き、またくるくる回る。内心、危ないと思ってます。



「ジョーイシシー・ハートスターアターッ(ク)」



まあ、ただ敵の急所に刀を刺すだけだが。


すると嘘みたいな爆発と共に、敵は消し飛んだ。刀刺しただけなのに。


敵が消えたあと、疲れたのかぐにゃりと視界が歪み、倒れそうになった。
でも誰かが支えてくれた。意識が途切れる最後に見えたのは、優しい目をしたタキシード姿の銀髪(銀八)でした。



[つづく]
(次のページは次回予告!!)