その雰囲気、振る舞いから彼が毎夜女性と夜を共にしてそう、というイメージが私にもあった。 だって、エロい。口元とかはだけた胸元とか。 だが実際、彼は女性というものにほぼ無縁な男だった。 夜はどちらかといえば、机に向かっている。出掛けるといっても武器の調達や情報収集といった用事ばかり。むしろ、溜まった欲とかストレスをどうしてるのかが不思議だ。ま、私が心配することではないが。 「高杉さん、少し休まれては?最近、連日寝てないように見受けられますが」 「じゃあ、お前に俺の仕事が出来るのか?」 「いえ。ただ、休まなければ、出来る仕事も出来なくなるかと」 高杉晋助という男は、その見た目や雰囲気と違い、仕事に熱心な男だ。 今だって私に背を向けて、何やら書状を綴っている。 「しかし、意外ですね」 「何がだ」 「高杉さんって、女遊びとかしてそうですよね」 「…男だからな。女遊びしたことないって訳はあるめェ」 くつくつと笑う高杉。その顔でしたことないって言われたら、それはそれで笑える。 「ブラフって言葉、知ってるか? 「どうしたんです?突然…っ」 どさり、と視界が天井を背景にした高杉で覆われた。起き上がるにも相手が男故に力負けして敵わない。 「ブラフって知ってるか?」 「嘘、とか…、はったり…ですか?」 「間違っちゃねェな。お前ェは俺を見てどう思ってる?」 高杉は楽しそうに聞いてくるが、その片手は私の手首を一纏めにしてる。自由のきくもう片方の手は、頬を撫でる。 ダメだ、頭ぱーんってなりそう。 「うぅ…、意外と真面目な、人。仕事熱心で、見た目の割に女に興味無い、印象…です」 また高杉の喉仏が楽しそうに上下した。 「実はな、全部嘘だ。俺は見た目通りの人間だ」 「なんで?」 「お前を俺に近づかせたかった。いつも無表情のお前の顔を」 「歪ませたかった」という高杉の言葉は私の舌の上に転がった。 まるで、蜘蛛の巣にかかってしまった蝶のように動けない私は、じわじわと内側から溶かされてしまうのだろう。 いつの間にか露になった、私の上半身に顔を埋める高杉のつむじを見ながら、痺れていく体と脳味噌。 意味がわからない。 高杉が私の顔を見る。 「人間らしい顔になったじゃねぇか」 朝はまだこない。 ×
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