名前は俺の右手を優しく絡めた。
空いた手で抱き締められる。

高いけど、低音の名前の声。



「銀時、幸せにする。支える。でもこの先に避けられない不幸な事や大変な事が起きても、お前は俺と乗り越えてくれますか?」


「…はい」



「なーんてね」と言おうとした名前に被せて返事をした俺を真ん丸な瞳で見た。



「やだ。銀時乙女顔なんだけどキモい」


「うるせー!!」


「なに?銀時ったら、一緒に乗り越えてくれんの?」


「誰がテメーと結婚するかよ気色悪ぃ」


「その言葉、そのまま熨斗つけて返すわ」



しばらく二人で笑っていた。
やがて話題は有名ケーキ屋の新作スイーツについて盛り上がった。



「あ、ヤバい。もう帰らなきゃ。じゃあね銀時。来週一緒に食べに行こ」


「奢ってくれるならな」


「意地汚い。浅ましい奴め…」


「何とでも言え。送るか?」


「うっざ。あ、いいよ。途中用事あるから」



カラカラと玄関の戸を開けると風が入ってきて、名前は目を細めた。



「なぁ」


「ん」


「名前、幸せにする。支える。でもこの先に避けられない不幸な事や大変な事が起きても、お前は俺と乗り越えてくれるか?」



名前は驚いた表情のまま固まった。でもすぐに笑顔に変える。



「お断りします」


「んだよ」


「私は、貴方には幸せになってほしいから。今まで人の倍、悲しみと苦しみを乗り越えたんだから。銀時にはこれからは幸せになってほしい」



そう言って名前は万事屋を出て、颯爽と階段を降りていった。

いつだってアイツは俺より一枚上手だし男らしい。どうして名前は女に生まれたのかが未だに疑問だ。性別が互いに逆だったら結婚したいくらいだ。

いや、逆じゃなくても…。



「いやいやいやいや。ないないないない」



アホか、と自分に言って俺は見えなくなった名前の背中から目をそらしたのだった。


×