「おい、やめろ」



珍しく、銀八の焦った声。私には、それがとても心地好いものに感じた。だから、笑った。



「あははっ!!先生、焦ってる?」



カシャン、と銀八は私たちを隔てる高い柵にしがみつき、のぼろうとした。私はそれを制するように銀八の手を握った。
銀八は、一瞬目を見開いてのぼるのをやめた。



「飛び降りてあげる。…………大丈夫、助からないように、勢いつけて、頭から落ちるよ。」



何言ってるんだろ、自分。

笑うつもりが、涙出てきた。そしたら、銀八が柵ごしに涙を拭ってくれた。腹立つ。こういう時、優しくするとか。



「私、見たんだよ。先生が、母さんと父さんをめった刺ししてたの。」



それは、14年も前の今日の話。私の父母が惨殺された。当時4歳の私にはわからなかったけど、18歳になった今、わかってしまった。



「先生に、捕まってほしくないからね。先生には3Zを卒業させる義務がある。…………私、疲れたよ。大好きな先生が犯人で、怨みたいのに怨めない。」



カシャン、と音がした。銀八は、柵を越えて私の隣に来ていた。私は、銀八にしがみついた。思い切り胸を押せば、足のやり場をなくし、あっさりと落ちていった。



ドシャリ



「これで、全員。」



この日、例の事件は時効を迎えた。