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「そういうワケだから、部屋から出るなよ」


「いやいやいや、今のじゃ読者に何も伝わらないよ土方くん」


「読者ってなんだよ」



土方に呼ばれたから、わざわざ出向いてやったのに言われたことは「保護してやるから部屋から出るな」だと。



「私はどこぞの幕末乙女ゲームのヒロインですかコノヤロー。軟禁されたって警察呼ぶぞ」


「俺がその警察だ。お前ぇいちいち腹立つな!!」


「土方くんに言われたくないですぅー。土方くんの態度の方がいちいちムカつきますぅー。はぁぁぁ、警察がいたいけな女の子を軟禁たぁ、世も末だね」



肩を竦めて、お手上げのポーズをとる雛に土方は青筋を立てる。対する雛も本当にムカついているようで、コァーコォーと口内に痰をため出している。


ぺッ



「オィイイイ!!!!テメェ制服に何してくれてんのォオオ?」


「痰でもかけりゃ、思い直してくれるかなって」


「直すかっ!!」


「だから土方くんはいつまで経っても土方くんなんだよ」



よっこいしょ、雛はダルそうに腰をあげる。来たときからそうだが、いつもダルそうで何をするにも面倒臭そうにしている。



「あー土方くん、私の前の勤め先から荷物届くから、よろしくー」


なーんかムカつくんだよな、アイツの態度。とか思いながら、出ていったばかりの雛が座っていた座布団を見遣る。




「山崎、いるか」


「はい」


「どこまでわかった」



山崎には先日、元からかあった仕事と別件で田中雛の事を調べさせていた。



「それが彼女についてなんですが…。全然怪しいとこなんてないです。経歴も彼女の言うとおりですし…ただ…」


「どうした」


「出生から十五年以上経歴がありません。でも彼女ぐらいの年齢ならよくあることです。ちょうど戦争中でしたし」



確かにそうだ。俺達世代前後はまだ戦前、もしくは戦中に生まれた者も多い。アイツも例外ではないだろう。
故に、戦争孤児だった者も少なくないし中には経歴が不明という者もいる。



「前の勤め先はどこだ?」


「貿易関係の職ですね。快援隊という…。ただ正社員ではなかったようです。あと本人曰く、裏では情報屋もされてたようです」

「わかった。その件は引き続き頼んだ。高杉の江戸入りの件はどうだ」

「あ、はい。高杉は単独で江戸入りすると情報が。詳しい行き先については仲間にも知らされてないようで、これ以上は…」



濁す山崎。それは言葉にせずとも「無理だ」という意味だ。
しばらくの沈黙の後、山崎が閃いたように口を開いた。



「雛ちゃんに聞いてみたらどうですか?……………………すいません」



すぐに睨まれて却下だったが。





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