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まず、土方の口から出た言葉は「お前を信用した訳じゃねぇ」から始まった。
「吉原のすず屋に、行ってほしい」
「……すず屋…、高杉晋助か」
「な…」
「何故知っている、と言いたげな顔ですね」
驚きを隠せない土方の台詞を代弁し、私はそのまま話を続けた。
「…はぁ、真選組には男しかいない。吉原で情報収集したくても密偵が男だと限界があるし、リスクも伴う。盗み聞きより、遊女に成り済ました方が楽に情報収集しやすい。そうでしょ?」
「今日はよく喋るな」
「じゃあもっとお話ししよーか。私の衣食住を保証しているかわりにすず屋にいる高杉の情報を引き出して欲しい。これが目的でしょう?………仮に私が抱かれようが死のうが真選組には何のデメリットもないものね」
小さいが確実に聞こえるように「汚い」と付け足したが土方は「何とでも言え」と吐き捨てた。
苛立つ私は、髪をかきあげる。
「私は、少なからず真選組に感謝しています。だからお礼に真選組の存続に必要なものも含めた情報を3つ差し上げます」
ニタリ、と笑う私は得意気に鼻をならした。 話の主導権を私に奪われた土方は不機嫌に返した。
「どういうことだ」
と。 この返事を「話せ」という意味に捉えたので構わず続ける。
「1つ、高杉はすず屋には"もう"いない。2つ、鬼兵隊に真選組の内情に詳しいヤツがいる。3つ、密偵の隊に間者がいる」
一本ずつ指を立てながら説明をしていく。指の本数が増える内に皆の顔色が険しくなっていく。
「あと、私もある事情で高杉を追っています。一時的に鬼兵隊に潜入していたこともある。もしかしたら顔を見たら誰が間者かわかるかもしれない。どう?私を臨時で雇ってみない?土方くんやい」
苦虫を噛み潰したような顔の土方。いつも深く刻まれた眉間のシワが更に深くなる。
いつまでも黙ったままの土方に代わり近藤さんが口を開いた。
「雛ちゃんは、顔を見たらわかるかもしれないんだよな」
「多分、です。一応当時の鬼兵隊のメンバーの顔は全員見てます。新人とかはわかりませんが…」
「トシ、高杉の件は洗い直しになる。だからまず間者の件を終わらせよう」
「…そうだな。高杉がすず屋にいねぇのが本当ならな」
「土方くん…疑心暗鬼のいいお手本。真選組が高杉を追ってるのをピタリ当てたんだから良いじゃん。それともなに、真選組内で仲間割れがあった事を内詳しく話せば私の情報の正確さを信じる?」
瞬間、水を打ったように静まり返った。
それは真選組内だけの情報であり、世間一般には知られていない情報だった。 故に、雛の提供した情報の「間者がいる」という情報は真実味が増した。
土方はため息を吐き出す。
「高杉の件は洗い直しだ。その前に、山崎と田中に間者を割り出して欲しい。できるか」
「それは良いんだけど…。山崎って誰?」
「えぇぇえっ」
「あれ、ドジミーいたんだ」
「雛ちゃん、もう14回自己紹介したのに…」
「うるさいなドジミー?」
ドスのきいた声色で言えば、山崎はヒィと悲鳴を上げた。それが可笑しくて笑っていると近藤さんが肩を叩いてきた。
「…雛ちゃん、すまなかった。高杉の件で利用するような真似をして」
「いいんです。お給料貰えれば」
「マジでか」
「ところで田中」
近藤さんとの会話に真剣な表情で割り込んだ土方。私は「なによ」と睨んだ。
「お前、鬼兵隊に潜入してたなら…高杉の側に常にいる側近のような奴はわかるか?」
「…側近?…さぁ」
「表舞台にはあまり出ないせいで情報は少ないが、狐の面を常に顔につけている小柄な奴だ」
「うーん、私は知らないね」
「そうか、ならいい」
この会話を最後に、解散となった。
私は2つ嘘をついている。 私は1つ話していないことがある。
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