餅焼く仲は睦まじきかな 3/5
「……レイナスさん」

「…………止めたって無駄だからな」

「気持ちは解らなくもないですが…何もそんな手段を取らなくても…」

エアベルンのキッチンにはミルザフルーツを自棄になって掻き込むレイナスと、その様子を眉尻を下げて見守るヴァイスがいた。

こんな行動も、それに至る理由も、子供じみている事くらい解っている。

解ってはいても、こればかりはどうしようもないのだと、レイナスは懸命に自己を正当化しようとしていた。

「知らない」

あいつにとって自分はまだ"特別な存在"であれているのだろうか。
しかし今までの事も、ただの自惚れだったと言われればそれまでだ。

話を聞いて貰える
傍に居て貰える
笑顔を向けて貰える

当然の様に享受してきたその全てが…夢幻に過ぎなかったら?

家柄の違い
両親との死別
学生の頃から越えられない壁

今までの彼の態度が全て、そんな同情に他ならなかったら?

いっそ、相手の考えが手に取る様に理解出来たらどれだけ楽だろう…

「ロナードさんが後ろにいますが」

「聞こえない―――って、え…?!」

驚いて振り返ると、そこには銀髪の魔術師の言葉に相違なく、黒髪の剣士が立っていた。

「――レイナス」

「……な、何だよ…?」

上擦った声を上げながら、こそこそと親友の好物を後ろ手に隠す。

「来い」

ロナードはそんなレイナスの様子に何を咎めるでもなく、あくまで振り払える程度の力を込めてレイナスの肩を引いた。



(………狡い…)

この、親がする様なさじ加減に抗える程、反抗期らしい反抗期を迎えた事のないレイナスは意固地を維持出来ないでいた。

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