小説 | ナノ



【トランキライザー】
※擬人化注意


「あ、ウル…フ……」
「あ?」
「いや…うん。なんか…ごめん…」
何の気なしに向かった屋上で見かけた人の名前を呼んだ。そして、その数秒後に激しく後悔した…。

その人。そう、ウルフはマスターの気紛れで魔法にかかって人間の姿になっている。まあ、耳とか牙とか爪とか…戦うのに必要な部分は獣の姿を止めているけど。
なんで私が意味もなく謝ったのかというと、彼の機嫌が最高潮に悪いとわかったから。いつもより顔が険しいし、眉間も狭いし、何より足元にある灰皿には吸殻がたくさん…。

「えーと…その…ど、どうしたの…?」
「るせえ」
何があったのか聞こうとしても、一言で切り捨てられた。機嫌が悪い時のウルフは、いつもこんな感じ。話をしようにも出来ないんだよね、頑固というかなんというか…。

「ご…ごめん、邪魔したね…っ?!」
触らぬ狼になんとやら…ってことで、私は屋敷内に戻ることを選んでユーターン。
…しようとしたら、ガシッと腕を捕まれた。慌てて振り返るとすぐそばにウルフがいて驚く。あんた足早すぎるよ。

「な、なに…?」
「……」
こっちを見つめる鋭い瞳。あ、これは、駄目だ。
冷や汗かきながら、なるべくいつも通りの声を出したつもりだけど、上手くいったかはわからない。目の前の狼は無言のままだし。

背中を扉に押し付けられて、ウルフの顔が迫ってくる。そして、私の首にその唇が下りた。
キスなんてそんなロマンチックなシチュエーションじゃないことは百も承知。私は覚悟を決めて目をきつく閉じた。

「ッ!…い、っ!…」
ブツリと、嫌な音。その直後にじわりと生温かいものを感じた。鈍い痛み。
案の定、ウルフの鋭い牙が私の首に突き刺さっているらしい。この人の噛み癖だ。イライラしてる時に、必ずといっていいほど私にあたってくる。

「いた、い…よ…ウルフ…」
「黙ってろ」
「…うう…っ」
ザラザラした感触が、痺れるような痛みを助長する。血を舐め取られているみたいだ。鋭い爪が鎖骨の辺りに線を引くと、そこもじわりと温かくなる。傷害罪で訴えたら、私普通に勝てるよね…。
下手に暴れてこれ以上ウルフの機嫌が悪くなるのもアレだから、一応好きにさせとくことにした。

「とりあえず、死なない程度にしてね…」
「どうだかな」
「ええー…」
まぁ、私は魔法使えるから死ぬなんてこと滅多にないと思うけど。それでも一応気にはなるんだよ。
傷をピーチとかに見つかるとなんかいろいろ言われるし。あの姫たちはそういう話題が大好物だから。しかも過去にこういう現場を目撃されてるもんだから、なんと返事をしたらいいものやら…。

「機嫌、直った?」
「さあな」
「ちょ…痛い痛い!」
しばらくは犬のおやつの骨っこよろしくガジガジとやられていた私だけど、そろそろいいかと思って声をかけた。
喉の奥で笑ったウルフが太股に爪を立ててきて、今度は本格的に焦った。刺さってる刺さってる!なんか際どい場所に刺さってるよ!

「もう、気がすんだら離してよー!」
「すんでねえよ。大人しくしてろ」
「いやだってこのままだとアブナイ感じになっちゃうよね?!」
こんな時間に何突然盛ってんだオッサン!そう言ったら首絞められて天国が見えそうになりましたとさ…。


「あらなまえ、その傷…」
「お願い何も言わないで私のハートは修復不可能な傷を負った!」
「あらあら、大変ねぇ」
首やら鎖骨やらに貼られたガーゼを見て、ピーチは苦笑い。私は膝を抱えてうずくまるしかなかった。

「なまえはウルフの精神安定剤みたいなものなのかしら?」
「逆に私の精神はボロボロになってるんですがそれは…」
ピーチの口から出た言葉は、嬉しいやら悲しいやら。何だか複雑な気持ちになった。
とりあえず、原因不明のこの顔の熱さをどうにかしないと。





14.02.07
突発的に思いついたウルフ夢でした

51 / 113
/

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -