小説 | ナノ
【それは恋が始まる瞬間】
どうも、皆さんこんにちは。なまえと申します。
私はこのお屋敷の使用人。住んでいる方々は皆さんファイターで、毎日楽しそうに「乱闘」と呼ばれる戦いをしている。
使用人である私の仕事は、ファイターの皆さんが快適に暮らせるように全ての家事をこなすこと。
「よ、いしょ…っ」
今日はとても天気がいいので、皆さんの部屋からシーツを回収して洗濯をすることにした。洗う作業はランドリールームにずらりと並ぶ洗濯機に任せたので、後は干すだけ。
…なんですが、30人以上分のシーツというのが、とんでもない重さ。何とか2つのカゴに分けて、裏庭へと運ぼうとしているのがまさに今。
両手でカゴを持っても、少しフラついてしまう私はさぞかし危なっかしく見えたらしい。
廊下をゆっくり歩いていたら、不意に私の体から重さという概念が消え去った。そして、白い塊で殆ど塞がれていた視界も急に開ける。
「あ…り、リンクさん…!」
「持つよ」
私の目の前には、緑衣の剣士リンクさんがいた。なんと、そのリンクさんの手には私が運んでいたカゴが…。
「いえ、大丈夫です!リンクさんにそんなことをしていただくわけには…」
「いいからいいから。力仕事くらいならできるしさ」
任せてよ、と優しく微笑むその姿はまさに勇者様。彼にはとてもたくさんの女性のファンがいることも頷ける。
私の制止を受け流して歩き出す彼の後ろを、私はただついていくだけになってしまった…。
「すみません…。結局何から何まで手伝っていただくことになってしまって…」
「全然。俺は今日特に予定ないから、暇なんだ」
ここは裏庭。私の視界には一面の白いシーツ。何だかんだで、リンクさんが殆ど干してくれた。
私は使用人なのに、こんなふうにファイターの皆さんの手を煩わすことばかりで…。中でもリンクさんは、数え切れないくらいたくさん助けてもらってる。
「折角のお休みなのに、いいんですか?」
「はは、気にしなくていいって。やりたくてやってるんだからさ」
風に揺れるシーツを見て、リンクさんはどこか満足そう。彼の言葉に少し救われた気がして、私も笑顔になる。
「なまえは大変だよな。料理も洗濯も掃除も全部やってるんだろ?」
「ええ、まあ。でも、私にできることはそれくらいしかないので…」
空っぽになった2つのカゴを重ねて片付けようとしている私に、リンクさんは声をかけてくれる。
この仕事は大変だけど、とてもやりがいがあるから。そして何より、ファイターの皆さんが優しい方ばかりだから、苦痛に思ったことは一度もない。
「他に、俺にもできることがあったら何でも言ってくれよ?なまえはもっと人に頼っていいと思う」
「いえいえ!私はもう既にリンクさんに頼りっぱなしですから、これ以上は…」
現に今だって、私は殆ど洗濯という作業をしていないわけだし…リンクさんの優しさにこれ以上甘えるわけにはいきません!
なんてことを主張したら、リンクさんは呆れたような顔で溜め息を吐いた。
「まったく…鈍感だなぁ」
「え?」
いきなり「鈍感」と言われても…何が何やら。頭の上に疑問符を浮かべる私の近くに歩み寄ってきたリンクさん。
そして次の瞬間、私の視界は緑でいっぱいになった。
「あ、あの…リンクさん…?」
「俺がなんでなまえの手伝いをしてるか、わかってる?」
「え、それは…リンクさんは優しいから…」
「ハァ…。俺はそんなに紳士じゃないよ」
抱き締められているんだとわかった途端に、顔が熱を持つ。だけど逃げることなんてできなかった。背中に回った力強い彼の腕に、なんだか切実なものを感じたから。
「なまえのそばにいたいから」
「…っ!」
「なまえと二人っきりになれるかも、って下心だよ」
「ええ?!」
そ、それって…それって…!
ワタワタと慌て出す私の肩にリンクさんの顔が埋まる。彼の金色の髪が頬に当たってくすぐったい。
私が上手く声を出せないでいたら、背中にあった彼の腕は腰に回った。触れ合っている部分にやたら意識が集中してしまって、マトモにものを考えられない。
そんな大混乱に陥ってしまった私にフッと小さく笑って、彼の形のいい唇が耳元でこう囁いたのを聞いた。
「なまえが好きです。俺と、付き合って下さい」
14.02.03
6800番キリリク「リンク夢」
ヒロイン目線てなんか難しい…
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