小説 | ナノ



【FLYING!】
※ヒロインは姫様でファイター設定


今日は朝から怖いくらいに晴れている。
こんな日は、目的地も決めずに自由気ままに走るのが一番さ!
お気に入りのスニーカーを履いて、いつものグローブをはめる。キッチンでもらった林檎を手に、俺は屋敷を飛び出した。

風を切って走る。そうだな、まずは森の方へ行ってみようか。
そう考えて、進路を変えた時だった。丘の上に人の姿を見つけた俺は、そっちへ思わず駆け出した。

「Hey、なまえ!いつも通り辛気くさい顔してるなぁ」
「…ソニック」
近くまで行って名前を呼べば、座っていたなまえが俺を見上げてくる。
冗談でも何でもなく、こいつ、なまえはいつも何処か悲しそうな顔をしている。今だって、ほら。こんなに気持ちいい天気なのにさ。

「こんな所まで散歩か?」
「ええ。ここは風が気持ちよくて、お気に入りの場所なんです」
「風ねぇ」
新緑の香りを乗せた風が、なまえの長い髪を揺らす。遠くを見渡すようなその視線は、やっぱり寂しそうで…。何となく、その場を離れることを躊躇ってしまう俺がいた。
すると、突然なまえが口を開く。小さな声だったと思うが、俺には確かにその言葉が聞こえた。

「私にとって、ソニック…貴方は風のような存在なんですよ」
「俺が?」
「ええ」
心の何処かに何かがひっかかるような、孤独を滲ませる微笑み。茶化したりすることも出来ずにいる俺は、なまえの次の言葉をそっと待った。その瞬間、風が凪いだ。

「私は、貴方が羨ましいのです」
「Why?」
「私も…貴方のように、自由に走り回ることができていれば…」
そう言って困ったような複雑な笑顔を見せるなまえに、俺は息を飲んだ。

マスターから聞いた。なまえはなんとか(名前は忘れちまった)って国の姫で、小さな頃から大人たちに囲まれて、たくさんのことを制限されて生きてきたんだ、と。遊びも、恋愛も、何一つ自分の自由にすることができなかったなまえからすれば、俺なんかは羨ましい部類の存在なんだろうな。

「そんな悩み、ここでは必要ないぜ」
「…そう、でしょうか?」
「姫だかなんだか知らないけどさ、ここでは皆一人のファイターだろ?」
だから、何でも自由にやればいいさ。カゴの中で大切に大切に育てられた鳥。だけど、この世界では自由に空を飛んでいいんだぜ?
そう言うと、なまえは意外だとばかりに目をパチクリさせる。

「私にも、それが出来るでしょうか?もう、空を飛ぶ方法さえ忘れてしまったような、哀れな鳥にも…」
「No problem!忘れたんなら、俺がまた教えてやるさ!」
誰よりも空に憧れているアンタは、風である俺が飛べるように導いてみせる。だから、そんな辛そうに笑わないでほしい。

「ほら」
持っていた林檎を、なまえに放る。受け取ったなまえは不思議そうな顔でこちらを見上げた。

「やるよ、それ」
「え?」
「美味いぜ!」
「……はい」
ニカッと笑って見せると、今までとは違う笑顔が返ってきた。その笑顔は、俺が今まで見たどんなものよりも優しく、輝いていたように思えて、俺は見入ってしまった。
そして、なまえはその小さな口で林檎を直接かじってまた笑った。プリンセスらしくない、少女のように純粋な笑顔。

「本当に美味しいですね」
「だろ?なまえはそうやって笑ってた方がいいぜ!もうウジウジ悩むなよ!」
「ふふっ。はい」
そろそろ心臓がドキドキうるさくて耐えられそうもなくなった俺は、なまえから視線を逸らしてしまった。
背中に受けた「ありがとう」の言葉には、上手く返事ができそうもない。だから、熱くなった頬を風で冷まそうとまた走り出した。

誰よりも綺麗な羽を持つアンタが、空を自由に飛び回るのを、楽しみにしてるぜ!




14.01.31
6700番キリリク「ソニック夢」
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