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【flower fortunatelling】
※トワプリ夢です


最近、なまえの様子がおかしい。
俺やイリアやファドと一緒にいても、どこか物思いにふけっているような…ぼんやりしたり、たまに悲しそうな顔もしたりする。
いったいどうしたんだろ。何か悩みでもあるのかな。なんて気にしていた。

「きっと、恋ね」
「こい?」
「なまえは恋をしてるのよ」
ある日イリアの口から出た言葉に、俺は頭を鈍器で殴られたようなショックを受けた。何か言おうにも、上手く声にならなかった。

「恋って…だ、誰にだよ?!」
「私が知るわけないじゃない。でも、そうねぇ…城下町にイケメンでも見つけたんじゃない?」
「………」
確かに、なまえは仕事の関係でよく城下町に行ったりするし。そこで何かあったかもしれない。城下町には、小綺麗な男がたくさんいるからな…。

「なまえがねぇ…」
「まぁこんな田舎の村よりはいい男もたくさんいるでしょうしね!」
「悪かったな!」
その時はイリアの毒舌で会話は終わってしまったけれど、俺の心には鉛のようなずっしりとした何かが残ってしまった。


俺はなまえが好きだ。ただ、直接その気持ちを伝えたことはない。伝える前になまえがあんな状態になってしまったから。

「恋、かぁ…」
なまえの心を独占しているのは、誰なんだろう。あの綺麗な琥珀色の瞳に、誰を写して笑うんだろう。あの鈴が鳴るような声で、誰に愛の言葉を伝えるんだろう。
考えれば考えるだけ、胸が苦しくなる。今日は牧場の仕事も手につかなくなったりして、ファドに呆れられる始末。

休憩時間に、気分転換をしようと足を運んだのはフィローネの森。少しでも空に近づこうと大樹に登って、うたた寝をしていた。

「…ん?」
ふと、誰かの気配で目を醒ます。閉じていた目を開くと、なんとなまえがこっちに歩いてくるのが見えた。
樹の上にいる俺に気づくことなく、なまえはその根本にそっと腰を下ろした。俺は何となく声をかけるのを躊躇って、その様子を見守ることになってしまった。
盗み見ているようで少し気が引けるが、もしかしたらなまえが好きな人について何かヒントを得られるかも、と浅はかな期待をしていたのもまた事実。

「……?」
息を潜めて、目を凝らし、耳を澄ます。
なまえが手に取ったのは、一輪の花だった。不思議に思う俺を他所に、華奢な手がその花弁を一つずつ千切っていく。そして、なまえの口からは…

「すき、きらい、すき、きらい…」
その言葉でわかった、花占いだ。今見ている光景に、俺は目眩さえ覚えた。
なまえはやっぱり恋をしているんだ。その確信が、俺の心に大きな動揺をもたらした。

どうしよう。どうすればいい?
なまえが他の男の所に行ってしまう。そんなのは嫌だ!
あまりにも短絡的な思考だったが、その時の俺にはそれで精一杯だった。

「なまえ!!」
「っ?!り、リンク…?」
形振り構ってられなくて、樹の上からなまえの名前を叫ぶ。突然のことに驚くなまえの所に飛び降りる俺を、その綺麗な瞳が不安げに見詰めていた。

「びっくりしたわ…。お昼寝でもしていたの?」
「なまえ…」
慌てた様子で、持っていた花を後ろに隠す動作。俺の心のもやもやは晴れるどころか、ますます俺を苦しくさせる。

「…ごめん」
「え?……あ、っ…!」
一つ、謝って。弾かれたように俺よりも小さな体を抱き締めた。驚いたなまえの手から花が音もなく地面に落ちる。その、半分だけ花弁がなくなっているのを見て、閉じ込めていた俺の想いが堰を切ったように溢れだした。

「なまえが、好きなんだ…」
「え…」
「なまえが他の男を好きだとしても…俺は、諦めたくない…」
「リンク…」
駄目だな、俺。なまえを困らせてしまってる。でも、一度動き出したら後戻りはできない。心臓がドクドクと脈打って、顔も熱い。
離したくなくて抱き締める腕にギュッと力をこめると、その中でなまえがビクリと震えた。

「…ごめんね」
「なまえ…?」
顔の見えないなまえから零れた謝罪の言葉に、俺の体が強張る。自分の恋が終わる瞬間を覚悟した俺は、脱力してしまった。
腕から抜け出したなまえは、悲しそうな表情でこちらを見上げてくる。そして、小さな声で俺に告げたんだ。

「誤解、させちゃったみたいで…」
「え、誤解…?」
「私が…好きなのは…リンクだよ…」
「っ!」
今度は俺が驚く番だ。思ってもいない言葉は、俺の妄想じゃないかとさえ考えた。
だけど、目の前の真っ赤になったなまえの顔を見た瞬間にこれが現実なんだと思えて…。

「ほ、本当に…?」
「…うん。リンクのこと、ずっと考えてたの…そしたら、リンクが現れたから」
花占いの結果よりも先に、リンクの気持ちを知れて嬉しいな。そう言ってはにかんだなまえに、俺の気持ちはついに爆発した。
再び強く抱き締めたら、今度はなまえの腕が俺の背中に回される。その感覚に、この上ない幸せを覚えた俺だった。

「なまえ…キスしていい?」
「え、っと…。そ、そんなの…聞かないで…っ」
頬に手を添えて顔を覗き込めば、オドオドと視線を彷徨わせる。長い耳まで赤くなっているなまえが愛しくて、俺は少し体を屈めてキスをした。

フィローネの森を吹き抜ける爽やかな風が、花弁を舞い上げて祝福してくれたようだった。




14.01.25
長くなりすぎた…

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