小説 | ナノ



【静かな焔】
※腹黒注意


「あれ、おかしいなー。なまえー?」
「さっきまでここにいたはずなんだが…マルスもいないな」

リンクとメタナイトが、なまえを探して呼んでいる。確か、乱闘の約束をしていたんだっけ。彼らが探しているなまえなら今僕の目の前にいるけど、教えてあげる気は毛頭ないな。

彼らから死角になっている本棚の影に、僕よりも小さな体を押し込めて。息もぶつかるくらいの近さで睨めっこ。
手首に力を込めたらその眉は寄ったけれど、なまえは表立って抵抗をしなかった。
ただ、懇願するような顔で僕を見上げてくるばかり。

「……はやくっ、行かな…きゃ…」
「疑われちゃうね。リンク、に」
リンクの名前を強調して呼べば、今度は泣き出しそうに形を歪ませる翡翠色の瞳。それがまた、恐ろしいくらい強い感情になって僕の胸を焦がす。
僕に出来ることは、なまえの進路を阻むことだけ。

「っだから…!私は、リンクとは、何もないって…」
「なまえは本当に嘘を吐くのが下手だなぁ」
「っ、なんで、信じて……くれないの…」
悲しげな声が耳をくすぐる。それでもこの手の力は緩めない。だってそうしたら、君はアイツの所に行ってしまうんだろう?

信じられないよ、君の言葉なんて。
誰にだって優しいくせに。
誰も拒絶しないくせに。

心の中でそう吐き捨てて、いつものように嘘を吐くその口を乱暴に塞いでみせる。逃げようとする舌を捕らえて絡めれば、なまえの目尻に溜まっていた涙が頬を伝って零れた。

「っん!……っ…!」
「ふっ、泣くほど気持ちよかった?」
「…っ、マルス…!」
「そんな顔じゃ、バレちゃうよ?」
苦しげな表情を見てようやく解放すると、肩で脆弱な息をするなまえ。呼吸困難で潤んだ瞳を嘲り、意地悪く囁いてやれば、壁に押しつけたままの細い手首が震えた。

僕の心を斑に曇らせるこの感情の名前が、僕にはわからない。嫉妬、嫌悪、憎悪、そのどれとも違う気がした。
だから僕は、こうしてなまえを自分の傍に縛りつけることにした。そうすれば、ほら。なまえは何処にも行かないじゃないか。

「なまえ、愛してるよ。誰にも、渡したくないくらい…」
「……マ、ルス…」
毒のようにそっと囁いて、笑って見せる。絶望に歪むなまえの双眸が、何より綺麗だ。
愛しているなんて、そんな言われ慣れた言葉じゃ君には足りないだろうけれど。今は、それくらいしか思い浮かばない。

「わ、私は……マルスのことが…」
「じゃあ、僕は先に行くから。落ち着いたら来なよ」
「……あ…」
勘付かれないようにね、と付け加えて、なまえ何か言い掛けたのを遮り歩き出す。力を失ってその場にへたり込んだなまえは、悲しそうな顔でこちらを見ていた。

マントを翻して、リンクたちの後を追う。背中に縋るような視線を感じたけれど、振り返ることはしない。

口元が笑みで歪むのを押し殺しながら、「いつもの僕」を演じるのさ。




14.01.22
黒マルスが好きだ←

45 / 113
/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -