「僕もユーくんの気持ちわかるよ。アニシナったら扱い酷いもん。」
あれから数時間、僕らは馬車に乗り込んで会場に向かった。僕はドレスを、ユーくんはスーツを着ている。彼は、いつものポニーテールを首の辺りでまとめていた。
いつもの任務なら歩きとかなんだけど馬車なのは、今回はパーティーで護衛だからそれなりに振る舞わなきゃいけないし、ユーくんもいるからね。
ガタガタいって腰が痛い。クッションがなかったらもっと酷かっただろうな…。
僕とユーくんはとりあえずお互いに慰めあった。ってかそうしないと立ち直れないよアレは。
「あ、そうそう忘れてた。」
1時間ほど馬車に揺られた頃、ふと大事なことを言うのを忘れてたのを思い出した。
「なんだ?」
「任務内容なんだけどね、一応話しとこうと思って。もしかしたら戦闘になるかもだし…。」
「別に構わねェ。血を見るのは慣れてるからな。」
「そうじゃなくてね、相手は人間だから…さ。
あっ!でも依頼人を守ってくれるだけでいいから!!殺しはプロがやらないと…。」
あぁ、気遣い…か。
「それに…戦闘はなるべく控えたいから目立たないように依頼人には静かにしてもらいたいの。だから一応依頼人の相手をしやすいように性格をね。」
「めんどくせェ。緋彗がやれよ。」
「僕は目立たないように影から見守る形で…。それに離れてた方がターゲットを視認しやすい。」
「ちっ。」
オレが舌打ちすると緋彗は、自分がふがいないばかりに巻き込んでごめんね…。と謝った。
人が嫌いになったのはお前のせいじゃないのにな…。
「でも今回だけだから我慢して聞いて?
依頼人はニゲラ・ヘプバーン。依頼内容は長女のアイリス・ヘプバーンの護衛。
アイリスの性格は聞く限りじゃ親の言うことを聞くいい子ってなってるけど、そういう場合はだいたい親バカでホントは我が儘で傲慢。自分が偉いとか可愛いとか思い込んでるから、気に入らないものは切り捨てて、気に入ったものはどんな手を使っても手に入れようとすると思うけど気をつけて。
あ…一応参考までに言っとくけど、コイツってばまだ9歳のくせに好みのタイプが年上の切れ長の目でカッコイイ男の子らしいよ。
ドンマイ。」
「どういう意味だよ?」
「年上の切れ長の目じゃん。カッコイイかは知らないけど。」
「そっちじゃねェ。ドンマイってどういうことだ?」
オレがそう聞くとキョトンとしてから、話しはちゃんと聞けよ。とむっとした。
「言ったじゃん。自分が偉いとか可愛いとか思い込んでるから狙われたら大変だよ。的なこと。」
「あー…聞いてなかったかもな。」
「なら万が一のことがあったら自業自得っていうことで。」
助けるくらいしろよ。
「まぁ巻き込んだのは僕だから、なんとかしてみるけど。で、最後にね…」
「まだあるのかよ。」
「最後だから。
始めに言っとく。ユーくんになにかあったら僕は助けるけど、僕になにかあったら構わずに任務を遂行して。」
「なっ…!」
ふざけるんじゃねェよ…。
「ユーくんは死んでも守る。」
死んでも…なんて言うな。
「ユーくんは僕を見捨てて。」
オレはそんなにでかい人間じゃねェから
「断る。」
見捨てるなんてできない。
「死ぬよ?」
甘いと自分でも自覚してる。
「わかんねェだろ。」
でも
「そうなると人を…同族を殺すんだよ?」
「だからどうした。」
守りたいと思う奴を見捨てるなんてできるはずがない。
緋彗は言葉に詰まって、馬車はガタッと音がして止まった。
「オレになんかあればお前が助ける。お前になんかあればオレが助ける。それでおあいこだろ?」
「巻き込んだのは僕だから…。」
「首突っ込んだのはオレだ。だから何をしようとオレの勝手だ。」
緋彗は何か言いたげだったが、オレを止める言葉が見つからなかったらしく、俯いて小さくありがとう。と涙を膝に落として呟いた。
その姿がオレには…自惚れではないけれど、嬉し涙に見えてしかたがなかった。 ←→ page: