20/32 「外みたいだな。」

「すっげーじゃん!」

「雲がとても綺麗に描かれているね。」


マリは小鳥の声を聞いていて、デイシャは実っている果物や野菜を、師匠は描かれた空を見ていた。


「空のペイントは、閉塞感を緩和させるために塗ってあるの。」


刑務所と同じ考えだな。と思いつつ、周りを見回す。確かに室内とは思えない。生き物いるし風吹くし空が高い。
今日は果物や野菜の収穫や小鳥に餌をやるらしい。冷暖房完備だから夏の野菜も食べ頃。

とりあえず、ぼーっと突っ立つわけにもいかないので採った野菜をマリと一緒に運んだ。


温度を高めに設定しているのか少し汗ばむ。蝉が鳴いて五月蝿いし、余計に暑く感じた。今まで静かだった緋彗が無言である木へ向かう。

桃か…。

するすると木に登って果実を一つ採って皮を剥き、かじる。手伝えよお前。


「テメェ…オレ達が汗水垂らして働いてんのに寛いでんじゃねェッ!!」

「ユーくんも食べる?」


話し噛み合ってねェよ。だいたいワンピースで登んな。つーかなんでこんなときにヒラヒラしたやつなんだ。

足揺らすなっ!


「足動かすの止めろ、仮にも女だろ。それに甘いもんは苦手だ。」

「甘いけどさっぱりしてるから大丈夫だって。目ェ覚めるよ?」


手渡された桃を受け取ると緋彗は足を止めて、木の上で体育座り。オレの注意は逆効果だった。止めたけど。

デイシャが思いきり目ェ細めてんの気付け!


「ホント美味しいから食べなって!」



甘…。」


緋彗に促され、一口。そーいやコレ食べかけだ…。と思ったのはかじってから。その後、桃独特の水分と甘さが襲う。思ったよりだいぶ甘い。でも、


「嫌いじゃない。確かにさっぱりしてて美味いな。」

「でしょ?この時期、朝はやっぱり桃だねウン!」


オレがそういうと緋彗は嬉しそうにフワリと笑ってウンウンと一人頷いていた。その顔に、その仕草に胸がドキッとなる。なんだドキッて…気持ち悪ィ。


「あ、ユーくんもこっち来なよ。暑いでしょ?」

「助かる。」


そこは葉で光が遮られていて涼しかった。襟を掴んで服の中に風を取り込む。緋彗は桃をガツガツ食べていた。他の奴らの分も考えてんのか?と思う程、一心不乱に。


何個か残して置けよ?とオレが口を開いたとき、


「発射!」


と声がして水が前からかかった。もちろん犯人はホースを持ったデイシャ。


「テメェ…ッ、何しやがるっ!!」

「んー…暑そうだったから水やりじゃん。」


さも当然と言うようにほざいた。確かに涼しい。涼しくなった。でも


「びしょ濡れじゃねェか!めいいっぱい水引っ掛けてんじゃねェッ!!」

「どーすんのさ!!僕裸足!歩いたら土まみれどころじゃねェじゃんよ!!」


『(確かにそれどころじゃないな…。)』


二人の視線は緋彗にくぎづけだった。なぜなら、ワンピース一枚の緋彗はもちろんスケスケ。下着までくっきりなわけで…。


「(コイツ…ッ、上付けて…!!)」

「ひゅ〜♪」


胸はそこまで成熟しておらず『ブラはまだいくね?』ということで、上はバッチリ!(何)
マセガキのデイシャは口笛を吹き、純情な神田少年は茹蛸のようになった。


「これ着ろっ!」

「はっ?日焼けしたいの?ここの光がいくら太陽っぽくたって紫外線なんかn「うるせェ!黙って着とけ!!」


そっぽを向いて脱いだ服を渡す。緋彗は着たら暑いじゃん。と言いながらも上から着た。


「ユーくん顔赤いよ?熱射病?」

「そんなやわじゃねェ。つーか顔近ェ!」


顔を赤くする神田にうわぁ…めちゃめちゃウブじゃん。とデイシャは思った。


「?
ユーくん、それなに?」

「あ?…
なんでもねェよ。ただの、タトゥーだ。」


オレの左胸の梵字を指して聞く緋彗にそういうと、じっと見ながら、そう…大変だったねぇ。なるべく使わないようにしなよ。と答えた。気付いてるのか、鋭い奴…。心の中で呟いた。


「よし。」


緋彗がいきなり立ち上がる。なんだ?と見上げると背中には黒い翼。


「借りはやっぱり二倍返しだよねぇ…?ユーくんは待ってて。」

「は?」


アイツはニヤリと笑ってから、枝を蹴って飛んだ。入口付近でなにやら機械をいじっている。そして、


ザッバァァァァアアア…


滝のように雨が…いや水が降った。量が多くてオレの肩にまでたまに雫が落ちる。


「大雨だ!」

「誰じゃん!?」


「ユーくんはこんなことしないだろうしねぇ…。」


師匠が髪をかきあげながら見回す。


「あははははっ!びっしょびしょーっ!!」

「緋彗!今すぐ止めなさい!!」


飛びながら腹を抱えて笑っていた緋彗は京子の声を聞いて、青ざめた。こってりと搾られたのは言うまでもない。


「緋彗。神田くんと外の子達に餌あげてきて?」

「は、はいお母様…。喜んで行きます。」


土下座で餌の入ったカゴを受け取る。アテレコするなら「貢ぎ物でございます。どうか受け取り下さいまし〜。」だ。


「神田くん。この子がなにかしたら容赦なく殴っていいからね?」

「はぁ…。」


そして今日、京子の恐ろしさを知った。 page:
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