13/32 「全勝。僕強い。最強。」

「途中で蛇にビビってたじゃん。」

「黙れ負け犬。」


デイシャをギロッと睨む。


神田との手合わせは緋彗の勝利で終わった。いいところまでいったのだが大きく振られた緋彗の鎌に薙ぎ払われ、六幻を手放して負けた。ちなみにその前に一度、神田をデイシャの時のように押さえ付けたのだが、蛇が地を這っていたために一旦マリの後ろまで逃げたりした。

今、デイシャとマリは太極拳。意外にこれが難しい。

緋彗は木陰に腰を下ろす。北の森とはいえ6月なので流石に日向は日差しが暑い。隣には神田。緋彗に負けたことにムッとしていた。少し心配したように声をかける。もちろん日本語。


「ゆ、ユーくん?」

「…なんでそんなにビクビクしてんだよ。」

「え?あ……やっぱり、そう見える?」

「?」

「僕…昔から街に行くと石投げられちゃうからさ、人間は嫌いだし、怖いん…だよね。」


雑草を引っこ抜きながら言う。


「家族は違うよ?拾ってくれたし、ずっと一緒だったから平気になった。でもやっぱり、人は慣れなくて…なにもしてこないってわかってても怖いっていうか…。」

「オレ達もか?」

「…ごめん…。」

「いや、それを話してくれただけで十分だ。」


頭を撫でるとビクッとしたが、俯いてじっとしていた。

デイシャ達の方からはたまに「かー、めー、はー、めー、波ッ!」と聞こえた。何やってんだアイツら。


「ユーくん。髪ぐしゃぐしゃになる。」

「後で直せ。」


緋彗の髪はサラサラとしていて心が和んだ。小動物を撫でて気を紛らわす奴の気持ちがよくわかる。


「なんか二人とも仲良いじゃん。」

「こうしてると緋彗が小動物に見えるな。」

「あ、マーくんにデイシャ。かめはめ波は撃てた?」

「私はやってない。デイシャだけだ。」

「あともう少しな気がするんだよな…。」


真剣に悩んでいるデイシャに、三人は哀れみの目を向けた。


「亀のポーズじゃん。」

「鷹のポーズだ。」


また日向に向かい、太極拳。なんか絶句だ。理由もなく絶句だ。家から持ってきた本を開く。日本語の勉強として読めと義父さんに言われた。


「なんの本だ?」

「源氏物語。日本の本だって。読む?」

「いや、日本語は読めないからな。」

「じゃあ僕が教えようか?」

「は?」

「僕、日本語なら読み書きいけるよ?英語はしゃべんのもきついけど。」

「仕事はいいのかよ?それに人間が…。」

「ケガしてるから暫く休み。人間は、訓練と思えば問題…ない。それに

なんとかしなくちゃって思うんだ…。もし人間にビビって反撃されたらダメだから。」


そうだ…コイツはケガしてたんだっけな。ハンデ有りで負けるって…。


「チッ。」

「Σ!」

「怒ってねェから大丈夫だ。」


舌打ちすると緋彗はビクッと肩を震わせた。昨日はあんなに鋭かった眼光もいつの間にか弱々しいものになっていた。仕事と日常は割り切っているんだろう。


「緋彗に神田ぁー!雨降ってきたじゃん!!」

「そろそろ屋敷に戻らないか?」


空を見ると黒々とした雲。マリやデイシャはビショビショに濡れていた。たまに空が光ってゴロゴロと鳴る。


「今朝からいい感じにさっきまで晴れてたのに。」

「早く戻った方がいいな。」


オレと緋彗がスクッと立ったとき、ピシャーンと雷が鳴った。そしてドッと来る重量感。


「無理無理無理無理絶対無理ホント無理。(日本語)」

「おまっ、抱き着いて…!」

「可愛いとこあるじゃん。」


不覚にも動悸がやばいオレ。ニヤリと笑うデイシャ。緋彗を心配するマリ。


「緋彗は雷が嫌いなのか?」

「こここ怖くないウン怖くなんかないからネいきなりぴかっとなるとことかピシャーンて鳴るとことか怖くないから(一気読み&日本語)」

『(怖いんだ…。)』


日本語だからマリやデイシャに意味は伝わっていないが、焦っていることは手に取るようにわかったみたいだ。


「怖くなんかないんだからな!」

「神田にしがみついて言っても説得力ないじゃん。」

「…しがみついてない。」

『どこが?』


ほら。と言って一人で立つ。足がガクガク震えてる。

ピシャーンとまた鳴ると、ホントマジ止めてください雷神様ァァァァアアッ!!!!!と言いながらしゃがみ込む緋彗。


「やだ!もうやだ!!死んじゃう!(日本語)」

「死なねェよ。(日本語)」

「…暫く動きそうにないじゃん。」

「どうする神田。」

「どうするもこうするもねェだろ。帰らねェと風邪引くぞ。」

「そりゃそうだけどよ…アレだぜ?」


視線の先は緋彗。ゴッドやらヘルプやら呟いている。オレは、大丈夫かコイツ。と思いつつ無理矢理緋彗をおんぶして連れてく。デイシャが口笛したのが聞こえたから睨んだ。

緋彗は意外と静かで必死に首に回した手を離さまいとしていた。雷が鳴るといちいちビクッとして腕に力を込めていた。
どうやら緋彗は肝っ玉が小さいようで、いきなりのでかい音にビビっている。つまり、雷のゴロゴロという音は平気らしかった。 page:
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