9/32 「あ、お金…。」

「あ?」

「忘れたのか?」

「ぴんぽーん。誰か取ってこい。」


無表情に上から目線。自分で取りに行く気は更々ない。


「嫌に決まってんじゃん。」
「断る。」
「テメェが行け。」

「やだ。」


義母さん。嫌だよこのメンツ。端から協調性のカケラもない…。


前方に昨夜の男がいた。まぁ死んでるしその場所から動いてもらっちゃ困るけど。


「(なんか金目の物…。)」


タッとそっちに向かって身ぐるみ剥がしながら呟く。


「シケてんなぁコイツ。この時代、殺しやってたらもっと裕福だろ…。っだってよ。」

「もはや外道…。」

「たしかに悪魔だな。」


「Oh, io ho una buona cosa.」


「今度はなんだって?」

「あ、いいもん持ってるじゃん。だな。つーか暇じゃん。緋彗!通訳なんてめんどくせェから英語話せ!!」

「わかったわかった。わ、スペツナズナイフ…。元ロシア軍?貰お。」


ネコババかよ。


「10ポンド…。やばいミルク買えるかな?」


ズルズルと死体を引きずり、地面に埋める。


「緋彗の思考の方がやばいじゃん。」

「相当な。」

「あぁ相当だな。」


プチッときたのでとりあえず、


「それ以上、無駄口叩くと地面に体半分突っ込むかんな。」


優しく言っておいた。






下町に着くと大人や子供がわんさかいた。


「Il diavolo è prossimo!
(悪魔が来たぞー!)」

「Un Stereolepis doederleini eruttano pietra!
(石投げろ石ぃー!)」



投げられた石をパシッと受け止める。


「くだんない…。」


周りから悪魔だ…とか化物…とか消えちまえ…とか聞こえた。まぁ無視に限る。


のに


「Chi è il diavolo?
(誰が悪魔じゃん?)」


「あ。」


デイシャがなんかムカついたらしく、懐を掴む。


「デイシャ。この後がめんどいから手を離して。」

「ちっ。」


デイシャが手を離すと、それまで黙っていた奴らが口々に騒ぎ始めた。


「È Lei relazioni dopo tutti?
(やっぱりお前関係かよ。)」

「Scompaia rapidamente.
(さっさと消えちまえ。)」

「Nonostante assassinio, appaia noncurantemente.
(人殺しのくせに、のこのこ現れやがって。)」


緋彗はそれを聞いてもまだ無表情で、しかし爪が食い込むほどにきつく拳を握っていた。


「Lei…!
(テメェら…っ!)」

「デイシャ。」


マリがデイシャを呼び止める。


「言葉がわからないので状況がイマイチわからん。」

「簡潔に教えろ。」


デイシャは簡潔に焦りながら答えた。




「Faccia la faccia che io finii…!Io mi sento ammalato!
(すました顔しやがって…!気持ち悪ィんだよ!!)」


バシィッと顔を殴られる。体勢は崩さなかったから、顔だけ元に戻す。


意味わかんない。


「Non stia in qui!
(ここに居座ってんじゃねェよ!)」



僕はなぁーんにもしてないのにな。


「Muoia!
(死ね!)」



唇を噛む。イライラする。


「Scompaia!
(消えろ!!)」



目に涙がたまった。


「Io sono indegno….
(くだらない…。)」


僕はそう吐き捨てて足を動かした。そのまま、どんどん早足にする。ユーくんやマーくん、デイシャの声は全部右から左に通り抜けていった。
今更だけど、なんて気の抜ける呼び方だよ…。








「ちっ、見失った…!」

「こういう場合、どっちが迷子と言うんだろうか…?」

「明らかにこっちじゃん。」

「今はそんなことやってる場合じゃねェだろ!」

「確かにな。今オレ達は見知らぬ土地で迷子になっている。」

「だけどこの広い街から緋彗を探すなんてインポッシブル!」


つーかめんどくせェじゃん。と座り込んで天を仰ぐデイシャ。


「マリ、耳澄ませ耳。」

『あ。』


ティエドール部隊はバカの集まりだった。


「つーかそんなに急がなくてもいいじゃん。」

「急がなきゃいけない気がするんだよ。」

「何故だ?」

「わかんねぇ…。嫌な予感がする、それだけだ。」


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テーマ「人外ファンタジー」
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