「誰だ?だってよ。完全に敵意剥き出しじゃん。」
女が話したのはやっぱりイタリア語で、デイシャのように英語は話さなかった。
「!
どけデイシャ!!」
女が何も答えないオレ達にイライラしたのか、デイシャの首を狙って切り掛かっていた。
音もなく、迷うこともなく。
見間違えか知らないが、少し顔は悲しそうだった。
六幻を抜いて防ぐと、キィンと金属同士のぶつかる音がした。
「神田!」
マリの声が聞こえる。女は右のナイフで六幻を受け止め、左手に新たなナイフを持ってオレの脇を狙った。オレはやっぱり避けるわけで、ナイフは空振り。
女はフラリと立ち上がった。コートからポタポタと血が滴る。明らかに血が足りていないはずなのに、その様子は呼吸が荒いことや顔色が悪いことだけで、他は微塵も見せない。
「誰?」
今度は英語で聞いてきた。口調はたどたどしいが、殺気が口を開くたびにとんできた。
「え…と、殺す人?」
「違う。」
「じゃあ…住んでる?ここに。
あ、やっぱり…んと、答えないで。Perché può essere una bugia, io L'assassino.
(嘘かもだから…どう答えても殺す。)」
ズッと翼と尻尾が消えた刹那、オレに向かってくる。また、悲しそうな表情。
目の前まで来ていて、攻撃してくると思ったらいきなり止まって後ろに飛んだ。
地面から師匠の楽園ノ彫刻(メーカー・オブ・エデン)が小さくなって現れた。
「デイシャ、彼女に伝えてくれるかい?私達は、マリアンに紹介されて来たと。」
「いいじゃん。」
あとから、ゆっくりと来た師はデイシャに通訳を頼んだ。クロス元帥に紹介されて来たから領主に合わせてくれと頼むと、思いきり嫌な顔をしてから了承した。
「Per favore mi occorra.」
「ついてこいってさ。」
フラフラとした足取りで女は歩いた。
橋の上に上がる。橋を渡って緩やかな坂道を歩いていく。両側は茂みで、木ばかりだった。必要以上は話さず、ただ黙々と歩く。
デイシャが暇だ暇だと騒ぎ始めたとき、女がどこかに持っていた銃でデイシャに向かって発砲した。それはデイシャの頬をかすり、茂みに消えた。
「うっ…!」
短い悲鳴。
呆然としているデイシャをよそに、女は声のした茂みに向かって歩き、何かを引っ張り出した。
それは一人の男の死体。左胸に穴が開いていた。女はそれを一瞥して、また歩き出した。
「騒いだら殺す。」
そうデイシャに忠告して。 ←→ page: