3/32 「デイシャ。この女性はなんと言っているんだ?」

「誰だ?だってよ。完全に敵意剥き出しじゃん。」


女が話したのはやっぱりイタリア語で、デイシャのように英語は話さなかった。


「!
どけデイシャ!!」


女が何も答えないオレ達にイライラしたのか、デイシャの首を狙って切り掛かっていた。


音もなく、迷うこともなく。


見間違えか知らないが、少し顔は悲しそうだった。


六幻を抜いて防ぐと、キィンと金属同士のぶつかる音がした。


「神田!」


マリの声が聞こえる。女は右のナイフで六幻を受け止め、左手に新たなナイフを持ってオレの脇を狙った。オレはやっぱり避けるわけで、ナイフは空振り。


女はフラリと立ち上がった。コートからポタポタと血が滴る。明らかに血が足りていないはずなのに、その様子は呼吸が荒いことや顔色が悪いことだけで、他は微塵も見せない。


「誰?」


今度は英語で聞いてきた。口調はたどたどしいが、殺気が口を開くたびにとんできた。


「え…と、殺す人?」

「違う。」

「じゃあ…住んでる?ここに。

あ、やっぱり…んと、答えないで。Perché può essere una bugia, io L'assassino.
(嘘かもだから…どう答えても殺す。)」


ズッと翼と尻尾が消えた刹那、オレに向かってくる。また、悲しそうな表情。


目の前まで来ていて、攻撃してくると思ったらいきなり止まって後ろに飛んだ。


地面から師匠の楽園ノ彫刻(メーカー・オブ・エデン)が小さくなって現れた。


「デイシャ、彼女に伝えてくれるかい?私達は、マリアンに紹介されて来たと。」

「いいじゃん。」


あとから、ゆっくりと来た師はデイシャに通訳を頼んだ。クロス元帥に紹介されて来たから領主に合わせてくれと頼むと、思いきり嫌な顔をしてから了承した。


「Per favore mi occorra.」

「ついてこいってさ。」


フラフラとした足取りで女は歩いた。

橋の上に上がる。橋を渡って緩やかな坂道を歩いていく。両側は茂みで、木ばかりだった。必要以上は話さず、ただ黙々と歩く。

デイシャが暇だ暇だと騒ぎ始めたとき、女がどこかに持っていた銃でデイシャに向かって発砲した。それはデイシャの頬をかすり、茂みに消えた。


「うっ…!」


短い悲鳴。

呆然としているデイシャをよそに、女は声のした茂みに向かって歩き、何かを引っ張り出した。

それは一人の男の死体。左胸に穴が開いていた。女はそれを一瞥して、また歩き出した。


「騒いだら殺す。」


そうデイシャに忠告して。 page:
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