210000HITと称した復活祭\(^O^)/ | ナノ

おりはら-いざや【折原臨也】
来神高校二年A組在籍。学生。
高校切っての問題児とされるが、持ち前の顔面によって女性からの人気は絶えない。


たぶん、折原くんを広辞苑的に説明したらこんな感じだろう。もっと主観的に言ってしまえば、それとなく色々あるけれど、広辞苑的に、だったらこれでおわりだ。

数学の公式を書きながら、先生の説明を聞いているとチャイムは鳴って、先生はまだ解説をしているというのに周りの子たちは筆記用具その他諸々を片付けだす。毎授業見る見慣れた光景だけど、いつまで経っても、先生ってかわいそうだなと思わずにはいれなかった。そもそも、問題児(つまりうちのクラスでいう折原くんだ)を学年で抱えている時点でとても不憫なのだと思う。

不憫ついでに言ってしまうと、わたしもまたその不憫の枠内の一人だった。実は、折原くんとは家が近くて、幼稚園からの幼馴染みで、でも仲良かったのは小学校中学年までだったのだが、そのころ、わたしは折原くんを臨也くんと呼んでいて、折原くんは私をなまえと呼んでいた。五年生になって、タイプが違うんだって気付いて、なんだかぎこちなくなってしまったのだ。それで、この度席替えで席がお隣さんである。教壇から見て、わたしが真ん中の少し右で折原くんはさらにもう一つ右。二人とも一番前だ。折原くんのさらに右の列は席一つ分後ろに下がるので、折原くんの隣は私の場所しかない。
ご本人さまには申し訳ないけれど、席替え当初は不登校になってしまおうかと考えたくらいに嫌だった。何よりもわたしの気持ち的に気まずかったし、折原くんは人気だ。思えば幼稚園のころからそうだった気がする。ファンクラブがあるのかどうか、私は知らないけれど、この前、栗色や金色の髪をした女の子が集まって話をしていたので、やっぱりあるのかもしれない。
とにかく、人気なのだ。漫画じみているかもしれないけれど、この席になったはじめは、隣代われよ。みたいな感じでやっかまれるのかとビビッていた。気まずいのが嫌だったし、もし、そう言われたらすぐにでも代わる心の準備をしていたのに、幸か不幸か、今のところそんな状況に対面していない。だけど、次の席替えまで気は抜けない。いつまでたってもわたしは折原くんや折原くんに好意を示している子たちにびくびく怯えていた。いや、わたしの心の持ちよう何だろうけれど……先生、これはわたしには荷が重いです先生…!

わたしができるかぎりの速さで黒板を写し終わると、担任の北村先生が入ってきて、帰りのホームルームが始まろうとしていた。
折原くんは今朝はいたけれど、お昼休みのあとからすっかりいなくなっていた。わたしがそっとその旨を伝えると、先生は至って普通にそれを出欠簿に書き込む。折原くんは“問題児”なのだ。そういう子はいない方がクラスも平和だから、先生としても心安らかにできるのかもしれない。だけれど、わたしはそれが少しばかり寂しく思えた。


わたしは折原くんのことがすきだった。“だった。”というのはもちろん過去のことを指していて、今はよくわからない。
きっかけは四年生の球技大会。試合を見ていたらボールが当たって、倒れて、先生がいなくて、そのとき一番の友達だった折原くんが運んでくれた。すきになるにしては、すごくすごく単純な理由だった。

五年生のときの体験学習だと思う。五時間くらいのバスの移動と聞いて、酔いやすいわたしは真ん中に乗りたくて、言えなくて、同じ班の男の子が後ろにしようと言って後ろになった。
案の定、わたしは酔ってしまって、吐いた。直前でわたしの様子に気付いたらしい折原くんが、着ていたトレーナーで受けとめてくれたのだけど、好きな人にそんなところを見られたという事実が余計に恥ずかしかったし、そんな人に汚いものに触れさせるという、幼かったわたしたちにしてみれば“恥”みたいなものをかかせてしまったと物凄い罪悪感に苛まれた。みんなが騒いで、逃げて、汚いって言って、その気持ちはわかるのに、泣きたくなった。その中で折原くんだけは逃げなかった。先生を呼んで、着替えてから、泣いているわたしに水筒を渡して、大丈夫?まだ気持ち悪い?それとも何か言われた?何言われても気にしなくていいから。俺ももっと早く気付けたらよかったね。ごめんね。なまえ、これ、飲んで。さっぱりするよ。そう言ってくれた。余計にすきになった。だいすきだった。小学生にしては、その想いは大きすぎた。

みんな多感な時期だったからだと思うけれど、それがきっかけで学校でからかわれるようになって、わたしたちはそろって否定して、気まずくなった。わたしは臨也くんを折原くんと呼びはじめて、折原くんはわたしをみょうじさんと呼びはじめた。自分がそうしたのに、とても悲しくなったのをまだ覚えている。
なんにしろ、元々社交性のある折原くんと引っ込み思案なわたしとじゃ、大した接点もなかったのだ。当然、次第に会話の数は、減った。
ただ、向かう方向と帰る方向は同じだったから、時間があってしまうと、折原くんは学校にいるときとは違って静かにわたしの後ろを歩いていた。もちろん一人で歩いているのだから、静かに黙って歩くのが普通なわけだけれど、わたしはなんだかひどく奇妙な気がしていた。わたしの記憶が正しければ、中三からそれが起こるようになって、高一になると、より頻繁になったのだ。

そして今、ただの家の方向が同じクラスメイトになった今更、お隣さんになったわけだ。折原くんは、よく、隣のクラスの平和島くんという背の高い男の子とどこかへ行くので、ノートを貸してほしいとわたしに頼んだ。わたしはなるべくわかりやすくきれいにノートを書いて折原くんの机の上にノートを置く役だ。
折原くんは中学に上がってから…もしくはその少し前から、なんとなく雰囲気が怖くなっていて、折原くんの将来のためにならないよ。ってわたしには断る勇気がなかった。だからわたしは折原くんの将来のためになるように、わかりやすくきれいにノートを書くのだ。そんなことを知ったら、折原くんは気持ち悪いって思うかなあと思ったけれど、折原くんはそんなことをわざわざ知ろうだなんて思わないだろう。あの時、逃げないでくれた、わたしからのささやかな恩返しになればいいと思っている。


「ごめん!今、大会前でさ、部活やばいんだ!」


目の前で四人の男女が手を合わせた。机は全部後ろに下がっていて、これから元に戻してゴミを捨てる時だった。今日は私の列が掃除の班だったのだ。


「ごめん、私も…。」

「あの、俺も、なんだけど、」

「うん、大丈夫。あとは机直して、ゴミ、捨てるくらいだし。」


わたしが笑うと、ありがとう!じゃーね!とみんなが手を振る。ばいばい。頑張ってね。と手を振り返す。ぱたぱたと彼らが行ってしまうと、オレンジの夕日が差し込む教室はとても静かで、とても神聖な感じがした。
その神聖な空気を壊したくなくて、ゆっくり、静かに、丁寧に机を並べ直して、ゴミ袋の口を縛る。終わった頃には、陽はもっと傾いていて、もっときれいに見えたけれど、とても泣きたくなった。冬場の夕方は、なんだか感傷的になるなあと小さく自嘲する。
すきだった、とか言いつつも、まだ折原くんがすきなのかもしれないなあ。なんて。
あれから、なんだかトラウマになってしまったようで、すきな人らしい人ができないのだ。わたしがすきになって、それでからかわれたらどうしようだとか考えると、どうしてもダメだった。だから、折原くんを見てしまうと今でも心臓が痛くなるくらいに横紋筋が収縮するのだろう。

鞄の中から、今日の午後の授業のノートを取り出して、隣の席にきちんと端をそろえて置いた。折原くんは、鞄が置いてあるから戻ってくるのだろうけれど、いつ戻ってくるんだろう。鞄とか、盗まれないかな、と考えて、やめた。彼の鞄を盗もうだなんて、普通の学生は愚か、ちょっと元気な不良だってそうは考えないはずだ。
余計な心配だったなと一人ごちて、鞄を手に教室を出ようと扉に手を掛けた。扉は勝手に開いた。どうやら目の前の大柄な男の…子(来神の制服を着ていたので、たぶん間違ってないと思う)が開けたようだ。
彼はわたしを見ると口髭を動かして、黄色い歯を見せた。効果音をつけるとするなら、ニヤリ、そんな感じだ。そしてわたしはきれいに並べたばかりの机に背中を打ち付けた。きっと、これも目の前の彼だ。とても痛かったけれど、速くてよくわからなかった。
彼はわたしの手首を掴むと机に縫い付けて、何かを喋って、わたしの首筋を舐めあげた。あまりの展開に、わたしは目を白黒させるばかりで、彼が何を言ったのか、わからなかった。わかったのは、彼の後ろから声がして、彼が振り向いて、転がった。そして一連の流れを行ったのが折原くんらしいと、それだけだ。
折原くんは肩で息をしていて、いきなりわたしを抱きすくめると、大丈夫?なにされた?怪我はない?俺がもっと早く気付けたらよかったね。ごめんね。と泣きそうな声で腕に力を込めて、ぎゅうぎゅうとわたしを自分に押しつける。


「これから先、誰に何を言われても気にしないから、気にしなくていいから、だから………だからね、一生、俺になまえを守らせて、ください。」


まるであの日の続きみたいで、わたしはぐしゃぐしゃの顔で臨也くんにだいすきを言った。






微妙な関係がセフレor幼馴染みしか浮かばないオチ。シチュ貧、汚らわしい奴でごめんなさい。そして出演者誰的なのも。自己満は達成しておりますがご希望に沿えていませんでしたらなんとかします。あの、なんとか…。
備考はこちらに載せます載せさせてください。
リクエストありがとうございました!
20111212