210000HITと称した復活祭\(^O^)/ | ナノ

一月十三日、深夜。なまえちゃんは明日にセンター試験を控えていた。にも拘らず、現実逃避なのかなんだか知らないけれど、お風呂からあがるとソファに寝転がってはシーリングファンを遠い目で眺めていた。


「なまえちゃん、明日の用意した?」

「……、……あー………うー…、」


してない、なあ。とどこか投げ遣りに呟く。はあ、と溜息を吐くところからして、明日、受けたくないんだろうなあ。と少し同情的になった。というのも彼女はセンター利用で第一志望に挑むことにしたらしいからである。まあ、ここで落ちても一般入試が後にあるとはいえ、明日が本番みたいなものだ。緊張だってするに決まってるし、人生の分岐点なのだから怖いのだろう。彼女の性格なら尚更だ。
そうは言っても、明日受けなかったらそれこそチャンスを無下にしただけになるから、俺は、自分の頑張ったことをなかったことにしちゃダメだよ。とだけ言っておく。頑張れ、だとか、深く考えるな、とか言うのは気が引けた。なまえちゃんは不安げな目でしばらくこちらを見て、わかった。と首を縦に降る。俺も口元を緩めて頷いた。


「受かったら、ご褒美あげるよ。」

「ご褒美?」

「うん、ご褒美。なんでもいいよ?何かほしいものとか、したいこととか、してほしいこととか。」


あるでしょ?と尋ねると、ほんとっ?となまえちゃんが身を乗り出す。現金な子である。なんなら誓約書でも書こうか?と言ったら、ぱぁ、と顔を綻ばせてしばらく口を閉じた。


「あの、」

「なぁに?」

「わたし、あの…、お、」

「お?」

「…おんせんいきたい。」


精神年齢が老けてると言われると思ったのか、恥ずかしそうに一息で言った。いいよ。と返すと、もう迷いはないようで、やった!私、四大温泉がいいなあ!とすでにいい旅夢気分である。


「じゃあ用意してきな。」

「はーい。」

「ちなみに受験票はちゃんと持ってるよね?」

「はい、もらってからファイルに挟んだままなので。ほら。」

「よかった。一応貸して。」


なまえちゃん、そそっかしいし、念の為。と紙を受け取り、隅々まで目を通し、そして、俺は額を押さえた。


「これ、確認はがきだから。受験受理の。」

「………え、」

「本物探して!今すぐ!」

「はいぃ!」


なまえちゃんは自室に駆け込み、俺も跡を追う。どうして昨日とか今日の午前に用意しとかなかったの!と少し強めに咎めると、忘れてた!思い出すたびめんどくさいから後回しにしてた!受験票さえあれば大丈夫だと思ってたあああ!!!とファイルの中を引っ掻き回す彼女から泣きそうな声で返事が返ってきた。


「こっ、尽く、ない…!終わった…っ!」

「諦めんな!他も探せってば!いつ渡されたかわかる!?」

「うわああああわかんないよお!全然記憶になああぁ!」

「絞りだせ!」

「そんなこと言ったって!
すっ、素敵で無敵な情報屋さんの無敵過ぎる情報網でなんとかお助けを…!」

「その表現止めろ!忘れろ!大体、さすがの俺も今日明日で紙切れは探しだせないから!」


……に、しても、すごいよなまえちゃん。一息ついて俺が静かに言葉を紡ぐと彼女が首を傾けた。


「俺、高校時代に教員が口酸っぱくして受験票なくすなって言ってたの馬鹿にしてたけど、まさかこんな付近に事例出す強者がいたとは…笑えない予想外だ。」

「感心しないでえええ!!!」

「とりあえず落ち着け!友達にいつ貰ったか聞いて思い出さないと!ほら、汐ちゃんとかいたろ!?」

「あっ、そっか!」


バッと携帯に飛び付いて、新規メールを開く。さすが折原さん灯台もと暗しですねマジ天才!眉目秀麗!さすが!と俺を煽てるのも忘れない。


「はいはい、調子いいんだから。早く連絡しな。みんな忙しいんだぞ。」

「…はい…もう学校決まってる瀬那か爽…は返信こなさそうなので瀬那に…。」


そううなだれながらなまえちゃんはメールを送信した。しかし、五分経っても十分経っても返信がない。


「うわあああああああん!!!」

「狂うな!他の友達でもいいだろ!返信早そうな子!いないの!?」

「あっ、まーちゃああああん!!!」


再び携帯を握りなおして素早くメッセージを送った。浮いたり沈んだりと表情が面白いくらいに変わるのを見て、忙しないなあ。と頬を掻く。なまえちゃんがメールを送ってから、きっかり十秒後、彼女の携帯が震えた。


「きたっ!さすがまーちゃんだ!」

「早っ!…で、…どう?」

「お気を確かにw学校最終日に皆貰ったよ。……だと…?」


驚きを隠せないでいるなまえちゃんは、学校最終日って十二月の終業式?それとも一月十日の指定登校日?と一秒で打ち、返す。どうやらキーボード打つのは遅いくせに携帯だと恐ろしく速いらしい。そこでやっと彼女が今現在、れっきとした女子高生であることを思い出した。なまえちゃんは見た目こそ幼いけれど、内面は驚くほどドライで大人顔負けの考え方を持っていたから、なんだかとても新鮮だ。

なまえちゃんの携帯がまた受信を告げた。『イエス。通知表と共に貰ったわよ。あ、な、た、もw』と画面に表示されており、この子もちょっと変わってる子だなあ。と思う俺に対して、なまえちゃんは、あっ!と携帯を落とした。何事かと思っていると、机の隣に置いてある、少なくとも勉強には関係ないけれど捨てちゃいけないような物をぐしゃぐしゃに入れた段ボールからB5サイズの厚紙を引っ張り出す。それを開き、薄紫の紙を一枚、手にした。


「あったああああああ!!!あったああああああ!!!折原さんありましたっ!」

「ちょっ、危なっ!いきなり抱き付くなって。」

「あったよお!折原さんあったよぉお!私なくさないように折れないように通知表に挟んでたんだった…!もう受けれなかったら、もう…!」

「本当によかったよ。久しぶりに焦ったもん、俺。よかったねえ、見つかって。」

「よかった!」

「うん。じゃあほら、まーちゃんに返信しなよ。」

「はい只今!」


Data:2012/01/14 00:09
From:なまえ
Subject:Re2:Re2:
あったああああああ!あったよ!あったよ!だいすきだまーちゃんだいすきだ!


「(…だ、だいすきだ…?)」

「もうまーちゃんラブ!あいしてる!こんどちゅーしてあげよう!」

「は!?」


思わぬ彼女の発言に、そちらを向いて声をあげると、わっ、なんですか折原さん、吃驚するなあ。と目を丸くしていた。吃驚とはこっちのセリフだ。あのシャイななまえちゃんが至って普通にちゅーしてあげようだなんて言ってのけたのだ。驚かないはずがない。その前はだいすきだって二回も文面に書いてあるのが見えた。ちなみに俺は一度だって言われたことがない。酷い話だ。


「…俺、親身に接したよね…?」


なんだか物凄くへこんで、当て付けのように言っても、え?あ、はい、ありがとうございました。と彼女は思い出したかのように言う。
別に、見返りを期待して、彼女に世話を焼いたわけではないけれど、さらっと感謝を口にされるとそれはそれで落ち込んだ。それに、何より友達との落差が激しいことこの上なく、それは如何なものだろうと思う。もうなんだか、俺の立場ってなんだったっけ?と考えたくなる。…あれ、俺のポジションって、ただの保護者だったかな。と。


「的確なアドバイスしたよね…?」

「う…うん(…落ち込んで…る?)」

「俺が気付かなかったら、確実に確認はがきを持って行ったよね?」


しつこく主張すると、俺が何を言いたいのかわかったのか、か、肩揉み致しましょう、か…?と顔を俯かせた。相変わらず、察しのいい子である。肩揉みもいいけど、なまえちゃん早く寝なきゃなんだから、別のにしようかな。などと言えば、お気遣い痛み入ります……。とかなり下手になった。


「じゃあ…キスしてよ、俺に。」

「はい?」

「マウストゥーマウス、わかるでしょ?」

「え、いや、あの、わかります、けど……なんで?」


その言葉を聞いて俺は、なんで?と繰り返した。俺の不満を感じ取ったらしいなまえちゃんがびくりと肩を震わせる。


「だって、おかしくないかな。友達にはキスできて、俺にはぜーんぜんそんな素振りもないって。確かに俺は君の態度から愛を感じたりするよ?だから性的なことを強いて無理に繋がろうとは思ってない。我慢…は、してる方。まあ嫌われたくないからってのが根本にあるけど。
でも、友達にはだいすきって言って、俺にはなくて、挙げ句、俺には自分からしてくれないくせに友達だったらキスしてあげようだなんて、ねえ?どうなの?俺って君の、何?」

「あの、おりはら、さん、それ、」

「ああそうさ、そうだよ嫉妬だよ。男の嫉妬なんか醜いって言われるけど、あれだけのことがあったら妬みの一つや二つあってもいいじゃない。」


全部言ってしまうとなんだかスッキリして、でも不満は解消されていないから、フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。一方、なまえちゃんは珍しくぽかんとしていて、それから少し何かを考え、俺の頬を両手で包んで向かい合うようにする。目が合って、なまえちゃんが目をしばたいて、視線をゆっくり口に移して、目を閉じた。


「…ん、」

「(え…?)」


恥ずかしがり屋の彼女にしては、ひどく緩慢なものだったと思う。俺は何故か目が閉じれなかった。恐ろしくゆっくりと近づいていって、重なることすら時間がかかって、離れるときですら惜しんでるかのように見えた。深く絡むものではなかったのにやたら心臓がうるさい。それはなまえちゃんも同じだったようで、唇は離れたけれど、すぐにでもくっつきそうな距離でピタリと止まって、耳まで赤い顔と潤んだ瞳を俺に向けた。


「だって、付き合って。とか、言われてない、し、言ってないから、どうすればいいか、わからないんだもん。」


つまりは、そういうことで、少しばかり真面目ななまえちゃんは、自分のあやふやな立ち位置にずっと困惑していたらしい。
そんな彼女に俺が完全に我慢できるはずがなく、噛み付くように今度はこちらから再び重ねた。


「付き合って。」


離れたと同時に、そう口にしたのは、至極当たり前の流れであると思う。






埋没こねたを書くつもりがいつの間にかこねたでおさまらないレベルになって、結局折原を与えてしまったごめん←
い、ち、お…う、振り回されてる不憫な臨也になっては、いる、はず←←
希望に沿えてなかったらごめんね…!あと高校合格おめでとう!あとリクエストありがとう!
下の方におまけ
20120116