210000HITと称した復活祭\(^O^)/ | ナノ

人間って見てる分には楽しいけれど、自分自身もそれだと思うと、ほとほと嫌になる。だって、面倒だ、人間って。特に心だとかいう、目にも見えないヤツがすこぶる厄介だ。なに、感情って。自分が揺さ振られると、こうも鬱陶しいのかと漸くわかった。すごく疲れる。

人からは外道だとかなんとか言われているけど、俺だって普通の人間で、普通に良心があるわけで、可哀想なものを見れば痛む心も持っていて、だからこそカミサマだとかそういう人外になれたら俯瞰的に見れるのかな、とか、痛くならないのかな、とか思って、小学校三年生辺りから他人から浮かない程度に一線を引いて人間観察を始めてみたりして、特に中二の時なんか一番強くそんな存在に憧れて、人ラブ!とかとりあえず全人類に愛を向けることでカミサマになったような錯覚を抱いていたわけだけれど、気付いた時には、そんなことを思っていた、してみた、憧れていた俺自身が、本当にいつの間にか、至って普通に、笑っちゃうくらい必死に、憧れていたカミサマやら人外とは掛け離れた、一人の普通な女の子に全ての関心という関心を向けている。
それを知った新羅は大いに笑い、そんな“普通な女の子”が君を選ぶとは思えないけど、応援はするよ。一応ね。静雄との喧嘩を知らない子なんかいないだろうから、とりあえず慰める準備でもしておくよ。と目に涙を浮かべてお腹をさすりながらヒィヒィ言った。それが俺にどれだけのショックを与え、俺を臆病にさせたかなんて、一緒に住んでいるらしい“彼女”に一身の愛情を向けている奴にとっては知った話ではないのだろう。俺だって有り得ないって思ったさ、運命だって有神論だって散々馬鹿にしてきた。でも、目が合った瞬間、脳髄に電撃が走ったみたいにビビッて何かが来たんだから仕方がないというか、とりあえず一目惚れとやらをしたんだ。顔も能力も普通なんだから余計に運命みたいだって感じたわけで、彼女がどう思っているかはわからないけれど、俺はそう思ったんだ。奴に話さなければよかったとは思うけれど、うん、だろうと思った。この間の文化祭で受付の彼女のこと見て放心してたでしょ。俺から見たらバレバレだよね、アレじゃ。他の人がどうかは知らないけどさ。と開口一番に言っていたので、言っても言わなくても結果は変わらなかったのだと思う。態度に出るだなんて俺らしくもない。

………まあ、でも、とりあえず、新羅なんかしね。ばーかばーか。
なんだかんだで高一の秋から二年二ヶ月経っていて、あの子と話せたのは盛って十回、卒業まで三ヶ月とちょっとだし、あと二週間くらいで自由登校期間に入るわけだから、会えるのは実質三週間分。もう、やるしかなかった。同じクラスになったら、と考えたことはあったけれど、結局一度もクラスメイトになることはなかった。


「A組の折原くんとC組のみょうじさんって、付き合ってるんだって。」

「あ!それ聞いた聞いたー。確か五日前くらいから流れてるよね。」


彼女はその噂を知らない。俺が思うに、相当彼女は情報に疎いようだ。噂を知ったら、廊下ですれ違っただけで顔を真っ赤にして俯くのに、それすらないから、たぶん、知らないのだと思う。みょうじさんはお友達がたくさんいるから、そのうちの一人くらい本人に言ってもいいんだけどなあ。


「羨ましいなあ、折原くんと付き合えるとかさあ。」

「なまえちゃんから告ったって話だよ。」

「えっ、珍しい!だってあの子すごくおとなしそうに見えるけど…。」

「でもむしろ折原くんから告る方が想像できなくない?」

「わかる!はあー、みょうじさんからねえ…。」


実際、そうだったらどんなに幸せか。幸せってのがどういうものかは言い表せないし、そもそも知らないけど、限りなく近い状態になれるだろうよ。
悶々と考えながらロッカーを漁って、英語の教科書とノート、プリントを探していたら、手元が疎かになってバサバサとファイルに挟んでいたプリントが落ちた。それに引っ掛かったらしいペンケースも中身をぶちかましてしまっている。


「(…次、移動だし、遅刻すると面倒な教師だっていうのに。)」


舌打ちをしてしゃがむと、黒いタイツの女の子が隣にしゃがみこんで、世界史の図表や四冊のノート、ルーズリーフにファイルと用語集と電子辞書と眼鏡ケースとペンケースと、あとそれとは別に蛍光ペンを自らの隣に置く。手早く俺の物を綺麗にまとめて、はい。と小さく呟いたような声とともに俺に差し出した。黒い足の間から、薄ら下着が見えた気がして慌てて目を逸らす。


「あの、大丈夫…?ぼーっとしてたみたいだけど、」

「あ、うん、だいじょうぶ、うん。あの、ありがとう、みょうじさん。」


どうやら俺は例の彼女に、あらぬ醜態を見せたらしい。うわ、なにこれ最悪。恥ずかしいったらありゃしない。
廊下で慌ただしく次の授業の準備をしていた生徒達が少しうるさくなった気がする。俺の耳は必死に彼女の細い声を聞き逃すまいとしてるようで、全然気にならなかったのだけど。
一方のみょうじさんは少しきょとんとしてから、どういたしまして。とほっとしたようにちょっとだけ顔を緩めた。


「えっと、厚かましいかもしれないけど、選択、移動教室なら急いだ方がいいよ。あと一分で始まっちゃう。」

「あ、あぁ、うん、そうだね。」


すると予鈴が鳴り始めたので、じゃあ、次は気をつけてね。とみょうじさんが世界史のものを一式、両腕に抱えて立ち上がる。なんだか、彼女が言ってしまうのが酷く勿体なくて、思わず、待って!と腕を掴んでしまった。彼女自身もそれとなく急いでいたのと、思いの外俺が強く掴んだせいで、みょうじさんはバランスを崩して俺の方に倒れる。


「(う、わ、)」


みょうじさんは、くらくらするくらいにいい匂いがして、驚くほど柔らかかった。というか、胸が当たってる。生徒は予鈴のおかげで、すでに教室内に戻っていた。ご、ごめんね。と言う彼女に、いや、俺が悪いから。と首を振る。どうして彼女が相手になると、こうも気のきく台詞が一つも思い浮かばないのだろう。
どうして引き留めるのかと言いたげなみょうじさんに、話があるんだけど。と言葉が勝手に口を吐いた。特に話題があるわけでもなく、新羅やシズちゃんが見たら目を丸くするくらい何も浮かばない。


「(どうする?もうこの際、暴露、とか、…いやいや自爆だけは無理ホント無理。絶対立ち直れない。)」


どうしよう、もうちょっとくらい、噂、広まって、意識してくれたらとか思ってはいたけど、まだ、言ったところで勝率なんか限りなくないってのに。


「その、あなたの名前って…折原くん、だよ、ね…?」


可愛らしく眉を寄せて戸惑いながら首を傾げるみょうじさんの前髪が、さらりと動いた。俺が大きく、何度も頷くと、そっか、と何か言いたげに口が開いたり閉じたりする。あの、とみょうじさんが俺を真っ直ぐ見つめてきて、どきりとした。


「詳しくは私もよくわからないんだけど、私と折原くんが付き合ってるっていう変な噂が流れてるみたいで、」

「…え?」

「だから、その、私が流したわけじゃないのだけど、不快な気持ちにさせてごめんなさい。」

「(あれ、)」

「…えぇと、それで、私に気を使って否定してないなら、全然、私は大丈夫だし、違うってはっきり言っていいから。」

「……、」


つまり、噂は気にしていないと、そういうことですか。雷に打たれたみたいだ。は、と自嘲して短く溜息を吐くと、みょうじさんの肩が揺れた。あの、話って、それじゃなかった…?と不安げに言う。もう、だったら言ってしまおうか。きゅ、と口を一文字に結んで、しっかりみょうじさんの目を見ると、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。


「俺、なんだ、噂を流したの。」

「え?」

「そうすれば、あわよくばきっかけとか生まれて、うまくいくんじゃないかって思った。」

「……うまく、いく?」


もし、違ったら、気に障ったらごめんね。…あの、もしかして……何か企んでるの、かな…?とみょうじさんは歯切れ悪く、さらに申し訳なさそうに俺に尋ねる。


「ち、違う!全ッ然、違うから!」


慌てて否定すれば、思ったよりも大きな声が出たらしく、わ、とみょうじさんは大きく肩を揺らした。すぐに謝るといいよ、大丈夫。ごめんなさい、疑って。違うならいいんだ。と彼女は頭を下げる。さらさらの髪が、また滑らかに動いた。ああ、疑われることになるなら俺、もっと誠実な人生を送ってくればよかった。そう後悔した。


「あの、俺、好きです。」

「…え、えぇ?あー…えぇと、何が…でしょう?」

「あっ、え、…え?」


この子を前にすると、相当俺はダメになるらしく、主語を抜かしたまま告白に至った。もちろんみょうじさんは困ったように笑う。…ああそうか、ごめん。と顔が燃えるように熱くなって、顔を伏せた。くそ、帰りたい。し、泣きたい。今まで俺に想いを伝えに来た子達を一蹴してきたけれど、今更ながらそれをすごく申し訳なく思った。


「その、みょうじさんのことが、すきです。」


俯いて言うと返事はなく、しばらくして顔を上げると彼女は目を丸くしたまま硬直している。白くて、頬だけ少しピンクをした顔は、見たことがないくらいに赤くなっていた。
あれ、これって、と期待した直後、ばっ、と彼女は立ち上がる。


「あ、あの、ありがとう、じゃあ私授業あるからこの辺で!」

「え、ちょ、」


俺が引き止める間もなくみょうじさんは世界史の授業をしているA組に入って行った。授業の用具はすべてここに置いていったままで、思わず口角が上がった。だって、ほら…いやあ、俺が気付けないだなんて一本取られたなあ。
俺の荷物と彼女のを持って俺のクラスの前を通ると、彼女は俺の席の座ってあたふたと隣の席の友人にルーズリーフと筆記用具を借りていた。眼鏡もこっちにあるけど、授業中だからなー。とクツクツ笑いが漏れる。


「(あとで届けてご褒美でも貰おっと。)」






埋没が多かったので別のにしてみました。ご希望に沿えてなかったらすみません。収拾ついてないかもしれません。
匿名希望さん、リクエストありがとうございました!
20111210