きみの手から魔法




「作兵衛…」

この申し訳なさそうな声は、と眉を潜めて振り返ると、予想に違わず今にも泣きそうな表情でこちらを見つめるいつもの連中の姿があった。
嫌な予感は多分予感では終わらないのだろう、と苦々しく思いないのちの所在・陽


空は透き通って青かった。雲ひとつないそこから降り注ぐ飴色の光を背に受けながら、乱太郎は平坦な道を歩いていた。
起伏に乏しい地平線にはしかし、ちらほらと障害物が混ざるようになった。その一つ一つが再び立ち上がると誓った人々が日々積み重ねてきた軌跡だ。
潮の香りが鼻を擽る。乱太郎はすんと鼻をならして顔を上げた。視線の先に、一際高い一本の木が天を目指して伸びている様をとらえる。
荒涼とした大地にどしりと腰をすえ背筋を伸ばした木はあの日、希望そのものだった。
その木の根本辺りに見知った顔がい並んでいた。
楽しげに言葉を交わす少年たちの一人がこちらに細い面を向けた。

「乱太郎!」
「きり丸!」

声に答えて大きく手をふり地を駆ける。きり丸の声に反応して振り返った仲間たちが輝くばかりの笑みを湛えて乱太郎を呼んだ。
僅かに崩れた輪の隙間から、小さな小さな緑が覗いていた。
それを見つけて、乱太郎の胸は益々膨らんだ。
一年が過ぎた。四季を越えて、命はまた芽吹く。
乱太郎は春の風をまとって、萌えだした緑の大地を駆けた。




(2012/3/11)
(2012/3/12〜拍手お礼)