(!)オリジナルキャラクターが一人出てきます (!)いつもながら救いがないです (!)よろしければお進み下さい 別れの情景 半農半足軽の生活など、つむじ風のようなものだ。 くるくる動き続ける戦況に翻弄され、重たい具足を身につけて西へ東へ。 自分たちの生活の為に故郷の村を離れ、今やどことも知れぬ森の中で足を引きずっている。 ゼイゼイ喉から漏れる呼吸が荒いのは、先ほど何処からともなく飛んできた鋭い礫のようなものを胸に受けた故だ。 男は重い足を引きずって一歩二歩と踏み出す。 陣へと向かうはずの足は自然と歩ん で来た道を戻り始めた。 こんなときなのに、無性に故郷の村が思い起こされた。 そろそろ刈り入れの時期だが、家には高齢の父と母、そしてもらって一年にも満たない嫁しかいない。 今年は天災もなく、日がさんさんと照り雨もよく降った。 大豊作ならなおさら男手がなけりゃあ。 つい一月ほど前、運良く村に帰れたときに、嫁が言っていた嬉しい報告とやらはもしかしてそれだろうか。 どのみちはやく帰ってやらなけりゃあ。 幸せな物思いに耽りながら、がっくり地面に膝をついた。 足がどうにもいうことを聞かない。腕も上がらない。 随分、走ってきたんだ。ここいらで一休みというのも悪くないだろう。 どしゃ、と鈍い音がどこか遠くで聞こえた。 それが自分の体が地に伏した音だなんて夢にも思わなかった。 頬にそっと触れた温もりにぎこちなく顔を動かす。 靄がかかったような視界に、女とも男ともつかぬほっそりとした人が映った。 黒衣をまとい優しげな笑みを浮かべたその人は、おっとりこちらを見下ろして囁いた。 「お嫁さんはね、お腹に赤ちゃんがいるんだよ。あなたをびっくりさせたかったんだよ」 赤ん坊…と反芻すると、その人はこっくり頷いた。 「元気に生まれるよ。あなたのご両親はあなたの生まれ変わりだって喜ぶみたい。良かったねぇ、皆に望まれる幸せな子だよ…だから安心してお休みなさい」 歌うような言葉がじんわり心に染み入って、男はゆっくり瞳を閉じた。 男の白い顔を最後に一瞥して、黒衣の人は立ち上がる。 その背中に三治郎と声が投げられた。 「しとめた?」 「なんとか。足早いから手こずっちゃった」 三治郎は脇にすとんと着地した男に唇を尖らせてみせる。 それに苦笑を返して、兵太夫は仏のわきに膝をついた。 そしてうつ伏せの躯を転がし、懐から書状を引き出す。 三治郎はそれをみやって眉を潜めた。 「まさかこの人も自分の村を敵国にうっぱらうための書状持たされてたなんて思いもよらないだろうな」 「また何か見たの?」 書面の中身を確認していた兵太夫は気の無い声で聞く。 これは結構心配してくれている時の反応だ。 三治郎は、んーんと首を横にふった。 「ねえ兵ちゃん、帰り道、ちょっと寄り道してもいい?」 「別に構わないよ。どこいきたいの?」 「ちょっとね、おめでとうって言いたくて」 訝しげな表情を浮かべて顔を上げた兵太夫に微笑みかけてから、三治郎は彼に背中を向け闇に溶けた。 了 (夢前、笹山) (2011/09/22) |