01:明かりを灯せ 02:一番星見つけた 03:大切なつかの間 04:悲しいものは悲しい 05:隣のあなたと手を繋ごう 06:朝はまた来る 01:明かりを灯せ 「しかし、ひっでぇ有り様だな」 地面に黒焦げになって倒れた元・大黒柱の丸材を、満身の力で持ち上げる。 その下から現れた埃と擦り傷だらけの人物をみとめて、虎若はにっかり笑った。 「確かにひっでぇや」 伸ばされた手に捕まって起き上がった団蔵は、ややよろけながらもしっかり自分の足で立ち、周囲を見渡した。 あっさら開けた土地は見渡す限りの荒野だ。ところどころから立ち上る煙の正体は、今は少し考えたくない。 いっそ不謹慎なほど青い空を小鳥が囀ずりながら横切っていく。 虎若は背中に乗せて支えていた丸材を投げ捨て、でもさぁ!と声を張った。 「でも生きてるよ、俺たち」 そう言いながら笑う虎若に、つられるように、団蔵も笑った。 そうこうしている間にも、身体の節々から痛みが上ってくる。 けれども、傷だらけの拳も、ひりつく喉から溢れる声も、間違いなく自分から発せられるものだ。 団蔵は空に向かって大きく両の拳を突き出した。 そして、あらんかぎりの力を込めて、声を張る。 「生きてるって、すげぇー!」 了 02:一番星見つけた 相変わらずの焦土の海を二人並んで歩く。 昼間は瓦礫と土砂の上を砂ぼこりが舞う変わり果てた光景に言葉を失ったものだが、夜は夜で手探りで進まなければならない。 夜目の効く自分たちは幸いだが、たまにすれ違う人は皆、闇がつれてきた恐怖と孤独に足を取られてしまっているようだ。 兵太夫は思わず、横に並んだ三治郎の手を握った。 期待した柔らかく握り返す手の温もりは、更にその手をゆりかごのように左右に揺らす。 「ねぇ兵ちゃん、見て見て」 三治郎は弾んだ声と共に、繋いでいない方の手で空を指した。促されるままに素直に空を見上げた兵太夫は、あ、と声を上げた。 立ち上る噴煙の隙間に、一等星が輝いていた。 「きれいだね」 三治郎が優しく呟く。 その瞳には、夜闇を諸ともせず力強く燃える一番星の輝きが映り込んでいた。 了 03:大切なつかの間 乱太郎、と声をかけようとして、うつ向く彼に気が付いた。 そっと近づいて、ゆるんだ掌から鋏を取り上げる。ここしばらくきり丸は乱太郎が休んでいるところを目にしていなかった。 続々運び込まれる怪我人を放っておけないのはわかるが、少し自分をないがしろにし過ぎだ。 そう忠告して、聞き入れる類の男でないことも先刻承知のこと。 ならば今しかあるまいと、薄い布をそっと丸まった背にかけた。そして自分もその脇に収まる。 せいぜい湯タンポにでもなれたらいい、なんて考えていられたのもつかの間、きり丸もあっという間に眠りに落ちた。 何故なら彼も、怪我人を運び込む作業を、乱太郎と同じくらい不眠不休で続けていたものだから。 了 04:悲しいものは悲しい 「どおしてえ…?」 喜三太は瞳いっぱいに涙を溜めて問うた この場に自分と喜三太しかいない以上、自分が答えるべきなのだろうが、言葉は何も出てきそうになかった。 金吾は唇と一緒に行き場のない怒りと自らの無力と、そして胸をさく悲しみを噛み締めた。 流れる涙を恥じるなんて、今日はしない。誰かの為に流れる涙は尊いものだ。 喜三太が胸に抱えていた名前もない花が、風に乗って戦い続けた人々の眠る場所を彩った。 了 05:隣のあなたと手を繋ごう 手をつないで頂けますか、と。 しんべえに聞いた声は、隠しようもないくらいに震えていた。 しんべえはもちろんいいですよ、と投げ出された手を握りしめた。 細い冷たい手にしんべえの温かな体温が移っていく。 冷えてしまいますね、と引かれようとする手を引き留めて、しんべえは笑った。 「温もりのお裾分けです」 了 06:朝はまた来る 伊助が庄左ヱ門を見つけたのは、人々が身を寄せ合うようにして囲んだ薪の明かりが届くや届かない、そのぎりぎりの境界線だった。庄左ヱ門は薪に背を向けるようにして立っていた。 その視線の先には、今は闇に沈んでいるが、見慣れた町の変わり果てた姿が広がっている。 ぽつりと、庄左ヱ門が呟いた。 「明日からどうしようか」 伊助は一瞬躊躇い、結局庄左ヱ門の肩に手を置いた。 「明日から、また一日一日積み重ねてったらいいだろ」 庄左ヱ門が驚いたような表情で、伊助を見た。 伊助は何かを飲み込んで頷き返す。仕方ないなぁと言わんばかりの眉を下げた笑みを浮かべて。その時、薪を囲む輪からおおい庄左ぁと声がした。 「今行く!」 庄左ヱ門が声を返す。よく通る声が、闇を少しだけ揺らした。 それから二人はそろって明かりの方へ足を踏み出した。 了 (2011/3/15) (2011/3/16〜2011/5/16 拍手御礼) |