浅い夜




三治郎の額に浮いた汗を手拭いで拭き取り、虎若は眉を潜めた。
昨日より熱が上がっている気がする。
平生ならば、ちょっとしんどいかも、なんて甘えてかかってくる時が頂点で、それから徐々に下がっていくのにこれはおかしい。
煎餅布団からのぞく三治郎の顔は、多分同級生の誰も見たことがないくらい、白い。
首筋に指先をあてて脈拍を確認する。
温かに脈打つ血潮を感じて、ほっと息を吐いた。
全く、普段と何一つ変わらない表情振る舞いを見せるくせに、体温だけが静かに上がっていくのだからタチが悪い。
それに気がついて何故言わないと問い詰めたのは、まだ下級生の頃だった。
三治郎は一瞬きょとんと虎若を見つめ返し、次いで、じゃあ今度から虎若には言うよ、と笑った。
以来、虎若は三治郎の番人になった。

三治郎の目は人の目には見えぬものを見通す。
その人知を超えた能力により見出だされる数々の情報は、極めて重要性が高い。
代償として、難易度の高い忍務から帰る度に生死の境をさ迷う高熱を発したとしても、三治郎を引く手はあまただ。

手の甲で額に触れると、その熱に手が焼けた。
伊助の薬湯も乱太郎と伏木蔵の煎じ薬も効かない。
最後は本人の生命力だから、と乱太郎がいつか難しい顔で呟いていたことを思い出す。
虎若は片方だけ立てた膝に頭を預けた。

浅い夜はゆっくり呼吸をする。
夜明けはまだ遥かに遠い。




(佐武、夢前)
(2011/?/??)









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